2010年、ヴァラエティー誌と米国テレビ芸術科学アカデミー(ATAS)がテクノロジーの変化で混沌としているテレビ業界の将来を予測するべく、各分野の首脳を集めてパネルディスカッションで綴るテレビ・サミットを共催しました。テレビの編成、制作、配信、マーケティング、デジタル化、海外市場動向など、各分野の首脳が現状分析し将来を語る、興味津々の首脳会議です。今年は3月21日に開催され、午前9時から午後6時近くまで、10グループのパネリストが専門分野を語りました。今回から数回に渡り、同サミットで学んだ事をレポートします。
シェラトン・ユニバーサル・ホテルで開催されたテレビ業界の首脳会議。会場入口で写真撮影。
昨年、初参加したサミットですが、余り画期的なことを耳にせず、まだまだ暗中模索なのだ!が感想でした。今年は、真っ暗なトンネルの遥か先に、一抹の光が差しているような感じがしました。インターネット中心に世界が動き始め、'テレビ離れ'が進むと長年言われてきましたが、そんな懸念など、どこ吹く風!的データの発表が光源だったに違いありません。
ニールセン社が3月に纏めた「クロス・プラットフォーム・レポート」を、クライアント・ソリューション部門のシンシア・アイデル上級副社長が発表しました。ケーブル加入者は僅かながら減少しましたが、配信形態の増加で、視聴時間を自由自在にシフトできるため、テレビ視聴時間が増加を続けていると言うデータは、「誰もテレビなんか観ていない!」と取りつく島がない米国の日系媒体に利用できそうです。
又、インターネットが何もかも吸収するネット中心社会に移行すると言う、従来の恐怖感を吹き飛ばす発言として、「コンテンツを太陽と見なすと、テクノロジーが可能にした配信デバイスやスクリーンは、周囲を公転する天体のような存在」が印象的でした。ニールセン社は飽くまで、コンテンツ中心論を主張しています。但し、問題はどこまでを「テレビ」と括るのか?です。「テレビ」の定義を新たにしなければならないこと、またテレビ無しでコンテンツ(=同社ではこれをビデオと括っています)を消費している'ゼロ・テレビ世帯'が同社のデータに加えられたことも注目に値します。
昨年は、同上級副社長がソーシャルメディアの功罪についてデータを発表し、ツイートなどの所謂「雑音」によるネタバレを避けるため、敢えて放送時間にテレビの前に座って観るようになった視聴者が2010年の20%から27%に増加したというデータが、最も興味深かったと記憶しています。特に佳境に入った、込み入った連ドラは、DVR録画しておいても、翌日風の便り(?)で、ネタバレ発生しがちです。又、日本ではあり得ませんが、時間帯を4つに分けている米国大陸では、東海岸で放送済みのものは、以西の時間帯でネタバレの可能性が高くなります。従って、ツイートなどを読まない‘消音状態’で観ない限り、視聴体験が損なわれると言う視聴者が増えています。ミステリーの結末を知ってしまうと、読書を続ける気がしなくなるのと同じです。「グッド・ワイフ」や「Scandal」など、複雑で一瞬たりとも目を離せない番組放送中に、ツイートしているファンは、それほど真剣に観ていないのでは?と思うのは、私だけでしょうか?つまり、ツイートでファンをつなぎ止めておくことはできても、番組を観ていない人には、マーケティングのツールにはならないと言うことです。
ジュリアナ・マルグリーズが演じるアリシアの一挙一動を見守っていると、「グッド・ワイフ」放送中にツイートする暇などない筈だが.... Andrew Evans / PR Photos
新番組の本数が2002年の90本から、10年後200本になったことからも、視聴時間シフトが自由自在になればなるほど、「もっと観たい!」という視聴欲を煽っていることは明らかです。放送時間に逸話を見逃したら、二度と視聴できなかったVCR普及前の暗黒時代に比べると、今はヒット作の裏番組としてぶつけても、秀作であれば、DVR録画、VOD/SVOD、DVDや他の配信形態で、視聴者が発見して、追いかけ/追い付くことが可能になりました。そういう意味では、黄金時代になったと言えます。しかし、次々と新しい刺激を求める視聴欲を煽れば煽るほど、視聴者の‘目’が1作に釘づけになり、大ヒットとなる可能性は薄れ、釘づけになっている期間も、どんどん短縮して行くと言う陰の部分もあります。それが証拠に、毎年視聴率は5〜10%余り減少するのが、昨今の業界の常識。毎年、視聴者が増えて行く嬉しい現象は、古代の遺物になってしまいました。
この日の呼び物は「チャック・ローリーとの対話」でしたが、今のような混沌状態になる以前から放送作家をしているローリー(「ビッグバン☆ セオリー ギークなボクらの恋愛法則」や古くは「ダーマ&グレッグ」に関与)が、「コンテンツとか製品って言う表現、辞めて欲しいな〜。ヒット作に不可欠の’魔法の粉‘の部分を無視した言葉だよ」と抗議しました。流石、アナログ人間!デジタル世代のコンピュータおたくやマーケティング人間が使う用語は、アナログ世代のクリエイター連中には、喉越しの悪い言葉です。
アナログ人間を代表して、「コンテンツ」と言う表現に物申すチャック・ローリーに拍手喝采!
Barbara Henderson / PR Photos
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