2013年冬のプレスツアーで発表された、地上波やケーブル局の新作。残念ながら、わくわく度が低かったことは、TCA冬のプレスツアー第一回でお話しましたが、その分公共放送PBSが用意しているドキュメンタリーが輝いていました。ここ数年、ドキュメンタリーの威力を身に沁みて感じているからでしょう。
前回指摘した、サンディフック小学校銃乱射事件など、「どこ吹く風?」的地上波局のお偉方に是非観ていただきたいドキュメンタリーがPBSで放送されます。
2月19日午後09時 「After Newtown: Guns in America」
2月19日午後10時 「FRONTLINE “Raising Adam Lanza”」
2月20日午後09時 「NOVA “Mind of a Rampage Killer”」
2月20日午後10時 「The Path to Violence」
さすがに公共放送だけあって、サンディフック小学校銃乱射事件を1)銃規制、2)証拠隠滅後自殺したアダム・ランザの生い立ちと銃規制で二分するニュートン市民、3)乱射魔の心理と動機(自殺願望、メディア、ビデオゲームなど)、4)学校警備の盲点、乱射事件の波紋など、あらゆる角度から考察します。喉元過ぎて熱さを忘れてしまったアメリカにも、まだ真剣に再発防止に時間と労力を注いでいる人達がいる証拠です。数ある起因を挙げて、優先順位をつけたり、責任のなすり合いをしている場合ではありません。映画「ボウリング・フォー・コロンバイン」でマイケル・ムーア監督が漫画で面白おかしく綴った「米国の歴史要約」(=銃社会の悪循環)を観て銃規制を再考し、オバマ政権下で、最初の一歩が踏み出されることを期待しています。
米国社会の汚点を記録映画で綴るマイケル・ムーア。皮肉にも、全米ライフル協会(NRA)の会員だとか.... Sylvain Gaboury / PR Photos
「ヘー!度」の高い粒ぞろいのドキュメンタリーの中で、女性解放運動50年の歴史を綴る「Makers: Women Who Make America」は女性視聴者にお薦めです。1月15日に行われたパネルインタビューに登場したのは、米国の女性解放運動の‘顔’と言っても過言ではないグロリア・スタイナム、米史上初の炭坑婦バーバラ・バーンズ、NOW(全米女性同盟)のアイリーン・ヘルナンデスと制作陣3人でした。私のお目当ては、1966年24歳の若さで、NYで女優業を目指す独り暮らしの女性アン・マリーを自作自演したマーロ・トーマスでした。「That Girl」を観て女の自立を学び、日本脱出を果たした私にとって、アンは英雄、お手本、目標でした。
私の英雄/お手本/目標アン・マリーを生み出したマーロ・トーマスに会って、お礼を言えるなど、想像したこともなかった。私の人生を大きく変えた人に会えるのが、この仕事の醍醐味! Andrew Evans / PR Photos
パネル後に、「That Girl」が私の人生を変えたと自己紹介したところ、「あら、ご両親に恨まれそうね!」とトーマス。最近、懐かしい古典番組ばかりを放送するMeTV局で「That Girl」を観ているだけに、ご本人にお目にかかった感慨はひとしお!でした。逆にスタイナムは、HBOのドキュメンタリーで以前にもツアーに登場しましたが、女性評論家仲間がアイドル視するほどの偉大さを全く感じません。スタイナムが活躍していた頃を見ていないから?とは思いますが、後光が差していないと言うか、カリスマがないと言うのか....
左から3人目がヘルナンデス、中央にスタイナム、右隣がキャリアウーマンの走りを自作自演したトーマス。右から2人目は米史上初の炭坑婦バーンズ。
「Makers: Women Who Make America」を観て驚いたのは、ウーマンリブでは世界の先端を行っていると信じていたにも関わらず、1972年に議会で可決された女性差別撤廃憲法修正案(ERA)は、1982年までに成立に必要な38州に満たず(3州不足)、不成立のまま、2013年まで来ているという事実でした。レーガン政権下で、保守派議員フィリス・シュラフリーが「男女の差異は当たり前、専業主婦のどこが悪い?」と居直り、男女同権を飽くまで主張すれば女性も兵役に服す義務が発生すると世の親たちの恐怖を煽った結果です。言論の自由は認めますが、女性への差別を撤廃する法律に反対するなんて、どういう神経なんでしょうか?折から、女性兵士に前線で戦闘任務を解禁すると発表があり、米軍内で性別を理由に特定の職種から女性兵士を排除することが原則として不可能になったと騒がれています。憲法上は男女同権ではないのに、軍規では女性だからと言って差別しない?変ですよ。この発表に対して、現役の軍人女性は「解禁されたからと言って、前線に飛び込む女性は僅かだと思います。男性だって、前線志願する人の数は限られていますから....門戸が開いただけですよ!」とコメントしていたのが印象的でした。
他に「ヘー!」度の高いのは、20世紀の革新家ヘンリー・フォードの摩訶不思議な人生感を描いた「American Experience: Henry Ford」や‘コメディ映画の巨匠’メル・ブルックスの公私を綴ったドキュメンタリー「Mel Brooks: Make a Noise」、「さようならコロンバス」で作家デビューしたフィリップ・ロスの80年を探る「Philip Roth: Unmasked」、1989年セントラルパーク・ジョガー事件で7〜12年の有期刑を終えた非行少年(当時)5人の苦闘から真犯人自供までを5人の視点から描く「The Central Park Five」など、見応えのある粒ぞろいのドキュメンタリーが待ち構えています。
「The Central Park Five」制作の動機を語るプロデューサーのケン・バーンズ、娘サラ・バーンズとドキュメンタリーで取り上げたレイモンド・サンタナ。NYPDの横暴な振舞いの犠牲者サンタナに思わず謝罪したくなった。
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