元々、女性向けのケーブル局として1980年代から君臨していましたが、ケーブル局数の増加に引き続き配信形態の複雑化で、完全にニッチを失ってしまったLifetime局。昨年、同局がオリジナルドラマシリーズとして発表した「UnReal」がヒットし、名誉あるピーボディー賞まで受賞して、久々に脚光を浴びています。故に、エミー賞も夢ではありません。このイベントで、投票者の心を鷲掴みにしようという意気込みを感じました。
「UnReal」については、2015年6月1日に放送開始となったシーズン1を同日「シリ・アップルビーの新作『UnReal』はリアル過ぎて辛い!」でご報告しました。本年6月4日、午後5時からハリウッドで開催されたエミー賞根回しイベントは、6日(月曜日)午後10時開始のシーズン2への期待感も高く、会場は女性ファンで満席となりました。
土曜日の夕方とあって、ハリウッドはまだ車でスイスイと走れましたが、ご多分に洩れず、毎回一番乗りして最前列に陣取る連中が、既に到着して並んでいました。ガラス越しに中を覗くと、ロビーの片隅には、超短いレッドカーペットが設置されています。開場30分前あたりから、正面入口に次々と番組関係者が到着して、レッドカーペットに向かいます。開場5分前に、あたふたと駆けつけたのは、英国ホテル王の御曹司アダム役のフレディー・ストロマでした。ストロマの腕に嬉々とぶら下がっているのは、劇中リアリティー番組「Everlasting」の相手役アンナを演じたジョアンナ・ブレイディではありませんか?番組が取り持った縁とは、正にこのことです。
劇場に足を踏み入れると、銀幕にはシーズン2の番宣ポスターが掲示されている。最近の業界誌には、シリ・アップルビー(レイチェル役)はエミー賞主演女優カテゴリー、コンスタンス・ジマー(クィン役)は助演女優カテゴリーに推薦したことが取り上げられている。何でも今年は俳優名をアルファベットの逆順(ZからA)で一覧表にしたため、ジマー(Zimmer)の方が有利だと報道されているが、私は実力から判断してジマーがノミネートされる確率は高いと診ている。 (c) Meg Mimura
レッドカーペットが長引いたため、予定より30分余り遅れて、シーズン1の最終回が試写されました。もう、4回くらい観てるんだけど....とついつい、居眠りしてしまいました。終了後、舞台にクリエイター、プロデューサー2人とアップルビー、ジマー、ストロマが登場し、パネルインタビューが実施されました。
左からモデレーターのエリザベス・ワグマイスター(ヴァラエティーTVレポーター)、サラ・ガートルード・シャピロ、アップルビー、ジマー、ストロマ、ステイシー・ラカイザー。 (c) Meg Mimura
創作に手を貸したベテラン放送作家マーティ・ ノクソンは退き、シーズン2から新たにロバート・M・サートナーとステイシー・ラカイザーが制作に加わりました。うん十年前(?)ABCの「The Bachelor」で働いていたシャピロの体験を基に本作が生まれましたが、「The Bachelor」の司会者クリス・ハリソンが「『UnReal』は目も当てられない!」と酷評した事実をモデレーターが早々に持ち出しました。
「クリスは職場の同僚だったけど、辞めてからは連絡したこともないわ」とシャピロが答えます。劇中の嫁取り合戦「Everlasting」の司会者グラハム(ブレナン・エリオット)を、スター気取りの薄っぺらなナルシストとして描いている事実を見れば、取るに足りない人間のコメント等、痛くも痒くもないに違いありません。そこへ、ジマーが「コメントするってことは....ご視聴、ありがとうございます!って言いたいわ」と茶々を入れます。会場が大いに湧いた所へ、シャピロが「今朝、あの頃の上司から電話があって、現実は『UnReal』よりもっとひどい!って、私の作品を褒めてくれたもの」と明かしました。えー、本作よりもっと卑劣な番組に出たい人って、性格が歪んでいるのか、売名行為のいずれかとしか考えられません。
パネルインタビュー終了後、投票者へのサービスとして写真撮影に応じる(左から)アップルビー、テレビアカデミー会員、ジマー。 (c) Meg Mimura
長年ジマーのファンなので、「UnReal」の制作発表時から応援してきました。ジマーならではの助演キャラ作りに常に圧倒されてきましたが、初めてインタビューした際、「主役じゃなくても、味のある役を選んできた」と述べました。性格俳優的要素を持っているジマーならではの答えですが、「UnReal」のクィン役も「飽くまで助演だと思っている」と言います。そうでしょうか?同様のアンチヒーローがテレビ界では長年横行してきた事実を指摘しましたが、「リアリティー番組作りに関わっていると、女だからって容赦してくれないもの。敏腕プロデューサーって、男も女もこんなものよ!」と舞台裏を披露しました。
もともと、クリエイターの夢のキャストがジマーで、「数回丁重にお断りしたんだけど、それでもめげないサラ(シャピロ)に根負けしたの」と笑います。「こんな暗い、卑劣な女をどう演じたものか?全く、検討もつかなかったから」が何度も辞退した理由です。パイロット版をモニターに観てもらった時に、笑いが取れるのは気詰まりな雰囲気でクィンが発する一言だったため、「私には笑わせる能力はないけど、セリフを言うだけで良いんだって悟ったの」と言います。「心地良いことばかりやっていたのでは、人間は進歩しないでしょ?恐怖心に真っ向から立ち向かわなければ!」とは、ジマーの人生観です。
シーズン1放送中に街でジマーに声をかける人達は、「ガラガラ蛇に近付く感じ....?」だったとか。応対しているうちに、「流石、女優さんですね。演技なんですね?」とクィンからは全く想像もつかない温和な人柄を褒められるそうです。人柄然り、衣装も然りで、普段はピチピチのミニドレスやハイヒールには無縁の生活をしているので「衣装に手を通すと、クィンに成り切れるから、制服みたいなものね!」と役作りを披露しました。
シーズン2で、逸話監督を果たしたアップルビー。「セットで育った子なので、いつか演出するのが夢だったの。でも、演出と同時に演技って、疲れるわ!」と語った。この日は、機嫌が良かったのか、根回し運動のサービス精神に目覚めたのか、気軽に写真撮影に応じてくれた。 (c) Meg Mimura
シーズン2は現在進行中ですが、第1話から前シーズンとは全く別世界です。シーズン1では、クィンの要請で渋々職場に舞い戻り、尻を叩かれて漸く、クィンの言いなりになっていたレイチェルが一念発起!二人とも男に失望、その分、金と力を手に入れようと、益々仕事に没頭します。クィンが制作総指揮の座に昇格し、愛弟子レイチェルを、番組プロデューサーに抜擢します。そして、花嫁候補を操る役目は、一見純情そうなインターンにお鉢が回ってきますが、蓋を開けてみると....これまで男どもにあらゆる面で牛耳られてきた女達が謀反を企て、リアリティー番組制作現場は、アンチヒロインの巣窟となって行く過程が描かれます。
レイチェルを演じるに当たって、同様の仕事をする女性プロデューサー達に「花嫁候補を操ることに後ろめたさは感じない?って聞いたら、『それじゃ仕事にならないわ!』と皆に言われちゃった」と驚きを語るアップルビー。
男に失望した寂しい女が仕事を生き甲斐とした時、職場が’家族’に取って代わり、こんな不健康な所に長居すれば、ボロボロになると解っていながら、辞められない....他に生きる場所がないから....実に侘しい、凄まじい世界です。本作は、今米国テレビ業界に押し寄せるアンチヒロイン・ブームの第一波として、うねる大波に変わりつつあります。
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