毎年5月、NYで開催されるスポンサー向けの新番組発表会がUpfrontと呼ばれるイベントです。プレスツアーとは異なり、キャストあるいは著名なプロデューサーが舞台に立ち、秋の新番組を手短に紹介するプレゼン+ショーで、CF放送時間を買ってもらうことが目的なので、局全体のプロモーションが狙いです。
今年のUpfrontで話題になったのは、「This is Us」のたった2分のトレーラーでした。美しいイメージを、勇気、寛容、希望、喜び、家族、愛などの心に響く言葉で繋ぎ合わせて人生模様を描き、涙と感動を誘いました。Upfront後、トレーラーは何と9100万回視聴され、NBCマーケティング部は異例の快挙を成し遂げました。
Upfront直後、NBCからクリエイターのダン・フォーゲルマンにインタビューしませんか?とお誘いが舞い込みました。飛びつきたいのは山々でしたが、パイロットを観るまでは何をどう質問すれば良いか分からないので、プレスツアーまで待ちますと丁重にお断りしました。想像以上のトレーラーへの反響を無駄にしてなるものか!と思う局のフライング行為です。気持ちは解るのですが....
夏のプレスツアー間際、待ちに待ったパイロットが郵送されて来ました。トレーラーはほんの序の口で、十年に一度登場すれば「ラッキー!」と言えるカテゴリーに入る、久々の涙と感動の人間ドラマです。止め処なく溢れる涙で心が洗われ、人間ってまんざら捨てたものではないな~と感動しました。「ギルモア・ガールズ」時代から知っているマイロ・ヴィンテミリアと、「リベンジ」以降注目しているジャスティン・ハートリーが配役されているのも相まって、8月2日のパネルインタビューを心待ちにしていました。
開口一番「パイロットの結末を、放送日まで内密にお願いします」と、フォーゲルマンが懇願しました。誕生日が同じ数人のキャラが、浮世の荒波を乗り越えて、たくましく生きて行く姿を描くパイロットには、漏らしてしまうと元も子もなくなる秘密が隠されています。パイロットを観て、プレスツアーに臨んだ評論家達に、ネタバレを回避するのに協力して欲しいと述べたフォーゲルマンの意図は「一般視聴者に皆さんと同じ体験をしてもらいたいので」でした。
映画「ラストベガス」や「ラブ・アゲイン」で名を馳せた脚本家フォーゲルマン。「世知辛い世の中を、少しでも明るくしたい」と劇場用映画として書いた「This is Us」だが、「LOST」のドラメディー版だと説明してテレビシリーズ化に成功した。「LOST」の完に未だに憤慨している私には、決して好ましい表現ではないが、私の例えはパイロット放送後にしか明かせない。 WENN.com
そして、9月16日に公開した「This is Us」評です。今のところ、ネタバレは発覚していませんが、それを言ってはヤバイ!?と思う記事もチラホラ....守秘義務はどうなってしまったのでしょう?
ヴィンテミリアは、2015年1月に「見えない訪問者~ザ・ウィスパーズ」のビデオインタビューして以来ですから、1年半振りでした。見る度に、「えっ、これマイロ???」と目を疑う変身(?)振りで、今回は最近のトレンド’髭’で舞台に登場しました。そろそろ、40歳に手が届くと明かしたヴィンテミリアとの初対面は、かれこれ15年ほど前、「ギルモア」に不良少年ジェス役で登場した年でした。「仕事が面白いと思う歳になって当たった役が、21年の役者稼業の中で最も単純な役なんだ」とヴィンテミリアは、今回演じるジャックを過去の複雑な役どころと比較して指摘しました。
Netflixの「ギルモア」にも登板が決まったヴィンテミリアだが、小柄な所為か40男には見えない。「HEROES/ヒーローズ」のピーター、「ザ・ウィスパーズ」のショーンなど、「This is Us」のジャックより遥かに根暗な役を演じてきたものの、この役が地で演じられるということは、大人になった証拠だ。 WENN.com
「ザ・ウィスパーズ」の予想外の暗い展開にがっかりしたので、ヴィンテミリアが「ダン(クリエイター)の頭の中を覗かせてもらったので、ジャックの人生行路を熟知した上で演技している」と披露したので、一安心しました。セッション後、「役者には何も教えてくれず、気が付いたらとんでもなく暗い作品になってしまって、残念だった」と「ザ・ウィスパーズ」についてコメント。それでも諦めなかったので、「最後まで観てくれてありがとう」と感謝されてしまいました。血みどろではなかったのが、唯一の救いです。
パイロットの脚本を読んだ友人から「ケヴィンって、君のことだよね。ダン・フォーゲルマンを知ってるんだ」と言われて、脚本を読み始めたハートリーです。読み始めたら止められなくなり、「どの役でも良いから出たい!と思いました」と登板の経緯を語りましたが、実はフォーゲルマンとはオーディションが初対面だった!そうです。
「ヤング・スーパーマン」のグリーンアロー(オリバー・クィーン)役が代表作だが、最近「リベンジ」や「ミストレス」でも好演した。不思議な巡り合わせで、登板したケヴィン役がハートリーのはまり役になるのではないか? WENN.com
パイロットが’十年に一本出たらラッキー’の箱に入れた見事な出来栄えなので、二話以降この感動を維持できるのだろうか?が、最も気がかりです。8月2日の時点では、第二話を撮影し始めたばかりでしたが、ヴィンテミリアもハートリーも、「どの脚本も良く書けているよ」と太鼓判を押してくれました。役者や制作に関わっている人全員がすっかり惚れ込んだドラメディーは、パイロットで視聴率を獲得できることは間違いありません。フォーゲルマンは、「期待を裏切らないよう、頑張ります」と確約してくれましたが、短気な現代人のことです。何話繋ぎ止めておけるのでしょうか?
久々に彗星の如く登場した温かいドラメディーは、世知辛い世の中で生き残れるのでしょうか?これまで、何十本となく私好みのドラマを泣く泣く葬った辛い体験があるだけに、無意識に本作への期待度を下げているのでしょうか?取り越し苦労に終わることを祈りつつ....
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