2013年度テレビサミットの最終パネルディスカッションは、ケーブル局の番組プロデューサー6人を集めて、ヴァラエティー誌のコラムニスト、ブライアン・ロウリーが質問する形式でした。
左からマーフィー、ヨースト、タマロ、ダフ、サッター
6人は、現存の番組を制作するエグゼクティブ・プロデューサーであると同時にショーランナーでもあります。ケーブル局から視聴率を獲得できる秀作が続出する理由について....
SyFy局で「Defiance」を開始したばかりの、ケヴィン・マーフィーは、
1)企画から制作までのリードタイムが充分にある
2)伝統的に地上波局がパイロットを制作する時期を外すことができるため、タレント(放送作家、俳優など)の争奪戦を回避できる
3)故に大物スターを配役することができる
と指摘しました。
但し、TNT「リゾーリ&アイルズ」を仕切ってきたジャネット・タマロは、「予算が地上波局より低いことは否めない」と付け加えました。1話に8〜9日かけて制作する地上波に対して、ケーブル局作品は7日分の予算しかないため、「複雑なストーリー展開やロケにかける時間も予算もない」と述べました。
タマロが制作する「リゾーリ&アイルズ」で主役を務めるアンジー・ハーモン(左)とサッシャ・アレクサンダー。ロケや複雑な展開ができない分、行動派女刑事+理論派検視官コンピの面白さを前面に出すしかない。 Emiley Schweich, Andrew Evans / PR Photos
FX局で「Sons of Anarchy」を創作/制作するカート・サッターは、
1)企画を持ち込んで話し合う時点でケーブル局幹部と直接交渉できる
2)数少ないオリジナル作品を育む温かい環境がある
3)手作り感たっぷりの良い作品に仕上げる努力が報われる
の3点を強調しました。これは、ケーブル局で秀作を制作している多数のプロデューサーから頻繁に聞く「ビジョンを死守できる」という意味です。口出しする局幹部の数が多ければ多いほど、クリエイターのビジョンは豹変するもの。「MAD MEN マッドメン」のクリエイター、マシュー・ワイナーがエミー賞受賞スピーチで、「ビジョンを貫き通せるのは、業界でも私だけかもしれませんが....」と公言したことは余りにも有名ですが、妥協を迫られない=ビジョンがブレないの公式を楽しんでいるクリエイターは多々存在します。
ワイナーは、「MAD MEN マッドメン」を、主役ドン・ドレイパー同様の暗い過去を引きずる俳優ジョン・ハムに託した。 Izumi Hasegawa / PR Photos
2013年TCAプレスツアーのレポート2月11日掲載ブログで、私が尊敬するジョン・ラングラフ社長に言及しましたが、FX局で才能豊かなクリエイターを大切に育て上げている張本人です。局の限界を弁え、マーケティングにかけられる予算も考慮して、本数を抑え、大切に育んでいる社長がいてこそFXが存在します。更に、同局の「Justified」と新作「The Americans」に関与するグラハム・ヨーストは、「独創性が高く、撮影が短期間という二点が俳優受けする点も秀作に繋がる」と付け加えました。大物スターが、敢えてケーブル作品を選ぶ理由はこの辺りにあるのでしょう。
ヨーストは2003年、NBCで画期的な「Boomtown」を試みましたが、結局視聴率が獲れず、キャンセルの憂き目に。FXの制作発表で、二度と地上波局と仕事はしないと何度も公言しています。タマロは、「恐怖感を礎に、秀作は築き上げられない」と地上波局の時代の流れに逆らう制作方針に問題があることを指摘。
ヨーストの自信作「Boomtown」で、LAPD刑事役を務めたドニー・ウォルバーグ。現在は、「ブルーブラッド」でNYPDの刑事を演じている。 robert mulrenin / PR Photos
ソーシャルメディアの使用法について....
この日、地上波局への面当てを矢継ぎ早に述べたのは、TNTの看板娘「クローザー」のクリエイターであるジェームス・ダフ。「クローザー」に行き着くまでに、15本のパイロットがポシャったと、6年前笑いながらインタビューに応えたダフとは大違い!「クローザー」のスピンオフ「Major Crimes」が好調なのに、いつもになく、ご機嫌斜めでした。何かあったのでしょうか?ソーシャルメディアは「番組ファンの共同体なので、即かず離れず」をモットーとしていると語りました。まるで、蜂の巣を遠巻きにしているような発言でした。
「クローザー」でブレンダの宿敵として登場したメアリー・マクドネル。「Major Crimes」では、ブレンダが去った後、元部下達を率いて日夜捜査に余念がないレイダー警部を演じる。 Andrew Evans / PR Photos
ヨーストも、「フォーカス・グループとして充分利用できる」と言いつつも、単なるフィードバックの位置づけで、ダフ同様距離を置いていることが読み取れました。
オートバイ無法地帯のハムレット的ストーリー「Sons of Anarchy」の性格上、サッターは「遠慮したい不逞の輩も結構いるよ。但し、何がファンに受けているのかを知るには恰好の道具だね」と発言しました。それでも、ソーシャルメディアに番組の舵はとらせないとも。読んではいるけれど、それでどうこうする訳ではないという扱いのようです。
「Sons of Anarchy」チャーリー・ハナム。シーズン2辺りまでは、プレスツアーに必ず登場したが、最近すっかり音沙汰がない。 PRN / PRPhotos.com
ソーシャルメディアに何か良案が書き込まれていても、放送された時点では、3〜5話先を撮影しているので、反映する時間がないというタイミングの問題もあります。手紙を書いていた時代と比べると、「即時性」は高まったものの、特に10〜13話でシーズンを終了するケーブル作品には、余り役に立たないということです。
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