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Channel: ハリウッドなう by Meg
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「世界制覇を目指している訳ではない。買手独占を何とか阻止したいだけ!」と訴えるジョン・ランドグラフCEO。寡頭支配制シリコンバレー・モデルの渦に巻き込まれたテレビ業界の未来を憂う

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2017年夏のプレスツアーは、8月9日FX局のパネルインタビュー(継続番組3本、新作1本、特別企画2本)、セット訪問2箇所、フォックス撮影所内の中庭でのイタリアンディナーで華麗に幕を閉じました。 午後5時半から開催された「The Assassination of Gianni Versace: American Crime Story」は、クリエイターのライアン・マーフィー以下5人のタレントが参加し、オペラ風の導入部が初公開されました。ほんの数時間前に、目にしたヴェルサーチ邸の玄関やバスルームが巨大スクリーンに映し出され、親近感が深まりました。セット訪問後に映像(5分程度)を見せるのは、巧みな演出です。「アメリカン・クライム・ストーリー」第二弾、ジャンニ・ヴェルサーチ暗殺事件は期待できそうです。因みに、’暗殺’には単に殺害するのではなく、ヴェルサーチのライフスタイルをこの世から抹殺することで、ゲイへの嫌悪を表現する意図が読み取れるからだと説明がありました。 20170921_ryan01.jpg FX局の顔となったライアン・マーフィー。現在、「アメリカン・ホラー・ストーリー」「アメリカン・クライム・ストーリー」「フュード/確執」のアンソロジー3本を抱えている。「ヴェルサーチは、最も尊敬するアーチスト」とパネルインタビューで披露したほど、個人的な思い入れが深い。ゲイであることを公表して、華麗な生き方をしたヴェルサーチは、マーフィーのお手本と言うことだ。 WENN.com 20170921_02.jpg ジャンニ・ヴェルサーチ役を射止めたエドガー・ラミレス。マーフィーから声がかかって、「是非仕事をしたいプロデューサーだったので、即引き受けた」と語った。「兎に角、脚本のペースがとても気に入っている」とも披露。 WENN.com しかし、同日の午前10時半から実施されたFX局ジョン・ランドグラフCEOのセッションは、これまでにない憂えに満ちた悲観的展望で、奈落の底に突き落とされたような気がしました。テレビをこよなく愛するランドグラフCEOは、年に2回、配信形態の多様化でどのような課題を抱えているか等、歯に衣着せぬテレビ業界の行く末や所見を披露し、希望の光を与えてくれる希少価値のお偉方でした。テレビ業界の’一抹の光’でさえ、今まさに風前の灯火であるかのような、後味の悪い感傷的なプレスツアー最終日となりました。 Mr.%26Mrs.jpg ランドグラフCEO (左)と奥方/女優のアリー・ウォーカー。ランドグラフのセッションを体験せずしてTCAを語れないと言っても過言ではないほど、テレビ業界の守護神的存在で、業界からもメディアからも尊敬されている。 (c) Stewart Volland このコーナーに記事を書くようになって、日本からは全く見えないテレビ業界の内情やストリーミング配信会社との複雑極まる関係などを折に触れてご報告してきました。特に「ピークTV」(=供給過剰)については、2013年以降、ランドグラフCEOが提示したグラフや表を利用して説明して来ました。供給過剰に加担する一方、飽くまでも視聴者数を明かさないストリーミング配信会社(特にネットフリックス)が、業界を根底から覆して混沌を生み出したからです。 プレスツアー開始2週間前の7月12日に、「遂にバブル弾けた?ネットフリックス社の相次ぐ打ち切りが引き金?」と題して、ネットフリックスの日の出の勢いが衰えた背景と事情を、「ブラッドライン」を例に挙げて、ご報告しました。しかし、ランドグラフCEOが持参した8月9日現在の統計では、2016年には、(脚本を元に制作された)ドラマ+コメディー計325本が放送されましたが、2017年同期には既に342本に増えていました。例年の如く、ストリーミング配信会社は、昨年の2割弱増の62シリーズを発表しました。既に配信の発表をしておきながら、配信に至っていない作品は、何と79シリーズもあります。ストリーミング配信会社が、何の理由か溜め込んでいると言うことです。「この驚くべき数字は、Apple TVが市場参入する以前のこと」とランドグラフCEOが指摘し、オリジナル・シリーズでしのぎを削る「ピークTV」は、まだまだ続く模様と予想しました。バブルは弾けたように見えましたが、あれは蜃気楼だったのでしょうか?数字を見る限り未だに膨らみ続けています。 そしてこの日、ランドグラフCEOが供給過剰を生み出した米国経済を分析して、噛み砕いて説明しました。要は、シリコンバレーの巨人が、テレビ領域に土足で踏み込んで来たのです。嘗て、私は地上波局を大衆相手のデパート、ケーブル局をブティック店に例えて業界を説明していました。そこに、大型量販店が乗り込んで来たと想像して頂ければ、現況が明白になります。大型量販店は、数をこなすこと、赤字などお構い無しに商品を買い漁り、消費者の’目’を捉えて現金化、最終的には世界を牛耳ることを目的としています。奇しくも、昨今エンタメ(映画・テレビ)業界を乗っ取ろうと目論んでいる大型量販店の1軒はアマゾンですが、流通産業界ではウォールマートと死闘を演じています。 最早、独禁法など過去の遺物です。シリコンバレー・モデルは、規模、データ、テクノロジー、アルゴリズム、財力を駆使して、市場シェアを拡大拡張し、世界制覇を目指します。そして投資家は、従来の儲けを出す会社に投資するのではなく、赤字でも中小企業をどんどん飲み込んで、お山の大将になり得る会社の規模や世界制覇の可能性に賭けるからです。ランドグラフCEOは、「親会社の21世紀センチュリー・フォックスは年間70億ドルの利益を出す。それに引き換えオリジナル作品に放出するあるストリーミング配信会社(N社を暗示)は、25億ドルの赤字だ」と指摘しました。年間95億ドルの予算があったらどんな作品を選ぶのだろう?と一瞬想像したランドグラフですが、即「自分で品定めして、好みの商品のみ扱えるブティックが好き」と切り返しました。品質、素材、詳細にこだわりがあれば、当然ブティックですよね〜。「世界制覇を目指している訳ではない。買手独占を何とか阻止したいだけ!」と訴えます。 食傷気味になる程、多数の作品が制作/発表されますが、大型量販店(=ストリーミング配信会社)が赤字を承知で買い漁るからです。このシリコンバレー・モデルには、製造業者が培って来た所謂’ブランド’は、利鞘が減るので無用の長物なのです。要は、市場シェアを二分するアマゾンかウォールマートに卸さなければ、いずれは商売が立ち行かなくなるからです。この様な買手が優位な態勢にあることを、買手独占と言います。クリエイターや俳優などのアーチストにとって、買手が数社しかない=選択肢が限定されると、才能を発揮できる機会が減少すると言うことです。 更に、落ち込む理由として、各業界を二~三大企業が牛耳っていて、それを阻止する法律も規制も無く、野放し状態であると言う点が指摘されました。アマゾン対ウォールマート、フェイスブック対グーグル対アップル、インスタグラム対スナップチャット、ネットフリックス対アマゾン対地上波+ケーブル局が好例です。ネットフリックス対アマゾン対地上波+ケーブル局の死闘から供給過剰が生まれ、数限りない水増しされた平均以下の作品が世に送り出されているのが現状です。 シリコンバレー・モデルのとどのつまりは、地上波+ケーブル局が合併吸収を繰り返して規模を大きくしても歯が立たないネットフリックスとアマゾンしか生き残れない、視聴者には何の選択肢もない社会です。テレビの将来は、夢も希望もないのでしょうか?テレビを愛する我々は、今何をすれば良いのでしょうか?飛びつきたくなる17年秋の新作がゼロという事実も相まって、8月9日以降、気が重くなる一方の私です。

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