※「風の勇士 ポルダーク」日本未公開シーズンについてのネタバレがあります。
今秋の新作は、お薦めできるものがほとんどないので、放送開始されている継続番組をご紹介します。
10月1日からシーズン3が始まったのは、「風の勇士 ポルダーク」です。夏のプレスツアーでも取り上げられず、広報からは新シーズンのオンライン視聴可のお知らせもありませんでした。英文評を書くために、ギリギリまで待って、シーズン3を最後まで観た上で、漸く掲載に漕ぎつけました。PBSは公共放送なので、広報予算が皆無と承知していますが、完全に無視する余裕があるのでしょうか?
英文評
シーズン2第8話で、ロス・ポルダーク(エイダン・ターナー)は、妻デメルザ(エレノア・トムリンソン)を振り切って、’逃した魚’エリザベス・ポルダーク(ハイダ・リード)の再婚を阻止すべくトレンウィズ(ポルダーク本家の館がある地所)に駆けつけました。ポルダーク家の領地も鉱山も略奪したジョージ・ウォーレッガン(ジャック・ファーシング)が、再婚相手!?とは。血気盛んなロスはまるで最後の砦を守るかのように、エリザベスと一夜の契りを結んでしまいます。ロスに救われると早まったエリザベスの期待も虚しく、ポルダーク本家唯一の跡取りジェフリー・チャールズ(ハリー・マーカス)を守るため、更に準貴族の華やかなライフスタイルを維持するために、ジョージと再婚せざるを得なくなります。ロスへの恨み辛みから、打算的再婚に走ったエリザベスですが、一夜の過ちのツケが回って来るのがシーズン3です。
シーズン2放送前に、ターナーと英雄論を交わしたことは、2016年9月29日「エイダン・ターナー、ポルダークを語る」でご報告しました。私の憶測通り、ターナーが’英雄’のレッテルを剥がそうとしたのは、ロスの’紳士にあるまじき行動’を演じた後だったからです。元々、家柄やそれに付随する’力’には無頓着なロスですが、経済的/法的/精神的に追い詰められた結果の型破りな行動が際立つシーズン2でした。ターナーが止めを刺すように’謎だらけの不可解な男’、’無法者’、’裏切り者’、’反逆児’等の言葉でポルダークの影の部分を浮き彫りにしたのは当然です。
コーンウォール地方の名士ジョージ(ファーシング)&エリザベス(リード)・ウォーレッガン夫妻、ロス(ターナー)&デメルザ(トムリンソン)・ポルダーク夫妻、ドワイト(ルーク・ノリス)&キャロライン(ガブリエラ・ワイルド)・エニス夫妻を中心に、ストーリーが展開されるシーズン3。 Courtesy of ©Robert Vigiasky/Mammoth Screen for BBC and MASTERPIECE
シーズン2は、家柄や権力を誇る準貴族階級対、財力で権力と家柄を手に入れようと躍起になる成金階級の激戦が描かれました。幼い頃からロス・ポルダークになりたい!と憧れてきたジョージは、鍛冶屋から叩き上げた成金三代目で、当時台頭し始めた銀行家と言う名の商人です。数々の策略が功を奏して、恋い焦がれたエリザベスを娶り、トレンウィズ乗っ取りに成功したジョージは、シーズン3は更なる権力を求めて治安判事、代議士、果ては国会を目指します。次々と立身出世しつつも、逆立ちしても貴族にはなれない上、自己嫌悪は日に日に度を増し、何を手に入れても至福を味わうことはありません。妬みと復讐が動機だからです。極めつけは、エリザベスが産んだ長男ヴァレンタインが自分の子供ではないかも?と、疑心暗鬼を生じて益々復讐に身を焦がし、損得尽くの弱い者苛めに徹します。今なら、実父確定検査をすれば済むことですが、何しろ18世紀ですから、証明の仕様がありません。苛めっ子もここまで来ると、滑稽であり、哀しくもあります。エリザベスにさげすまされるのは、時間の問題です。
Poldark Series 3 Teaser Trailer - BBC One
一方、ロスに依存して生きる家族、鉱夫や使用人の輪が広がった今、独り身の時に通用した善悪の判断ができなくなりました。「自由、平等、兄弟愛」の信念を貫けば、波紋は大きく、遠くまで広がります。裁判沙汰になって世渡り術を学んだのか?と思いきや、シーズン2後半で取り返しの付かない過ちを犯してしまったロス。シーズン3は、親友エニス医師(ノリス)救出作戦なる大冒険に身も心も注ぎ、家庭を顧みない身勝手な男になってしまいます。ロスの願いは、飽くまでも望みのままに生きること、家族とポルダーク領地を支えてくれる貧民を守ることです。
ロス(ターナー)は、地元の繁栄と富を満遍なく分かち合うことが目標のリーダー格。いつの世も、使命感に燃える男にとって、家族は二の次でしかない。 Courtesy of ©Robert Vigiasky/Mammoth Screen for MASTERPIECE
現実を直視して、もっと賢く立ち回って欲しいと願うのは、飯炊き女から妻となったデメルザです。今シーズン、ロスの身勝手を許して溜まるもんか!と、夫婦平等を主張して、積極的に不倫相手を求めたり、実弟サム(トム・ヨーク)とドレイク(ハリー・リチャードソン)の布教活動用に、不動産分与を一存で決めてしまいます。21世紀でも、夫婦が完全に平等!と言い切れる女性が、何人いるでしょうか?今シーズンは、女性キャラ(特にデメルザ)が超近代化されて、現代女性顔負けの強かな女に豹変しました。原作を読んでいない私の憶測ではありますが、これも時代の流れを反映した有機的軌道修正なのでしょうか?18世紀の耐える女や尽くす女が主人公では、21世紀の視聴者の心を繋ぎ止めておけないのでしょうか?
頑固一徹の男女の結婚の行方は?未熟な男(ロスやジョージ)対実質的な女(デメルザやエリザベス)の闘いが見事に描かれる。 Courtesy of ©Robert Vigiasky/Mammoth Screen for MASTERPIECE
蝶々夫人並みに崖っ淵に立って夫の帰りを待ちわびるシーンも多々ある反面、ロスの出世欲の欠如に不満タラタラのデメルザ。分家の長男とは言え、ポルダーク家の末裔が、御上として農民や労働者を上から押さえつけることに抵抗を感じると説明したにも関わらず、文句は尽きません。完璧ではありませんが、概ねいつも正しいことをしようと心がけ、世のため、人のため日夜努力するロス・ポルダークは、私にとっては’英雄’の外、何者でもありません。尤も、私はロスの奥さんではないから、英雄と呼べるのでしょう。
人助けの使命感に燃える人と結婚すると、家族は優先順位の下の方、下手をすると最下位かも知れません。アメリカ同時多発テロ事件の後、家族を顧みず、ツインタワーに飛び込み殉死した消防士の話を何度も何度も聞きました。英雄は家族を踏み台にして成り立つものです。そこで、デメルザに一言。踏み台にされていると思うなら、文句タラタラ、言い寄ってくる男達(次々と出て来るから不思議です)を利用してロスの気を引こう等、つまらない策略を巡らすのは辞めましょう。ロスに尽くすか、子供を連れて出て行くか、二つに一つ。どちらにしますか?
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