※「ザ・グッド・ファイト」シーズン2についてのネタバレが含まれます。
去る3月16日に公開した「18年冬のTCAツアー」の2大トピックの中で、現在の米社会のまともな人間は学習性無力感/絶望感のどん底から這い上がれないとご報告しました。排除しようにも、トランプはのさばる一方で、辟易の頂点に達した常識人は根負けし、完全に闘う気力を削がれてしまったからです。
コメディーで茶化すか、「Designated Survivor」(昨秋始まったキーファー・サザーランド主演の政界ドラマ)のように、理想的な米大統領を描いて夢を見るしか手が無い、実に情けない状況です。そんな現状を蹴散らすように、3月4日ストリーミング配信を再開したのが「ザ・グッド・ファイト」です。プレミアを控えて、発表した英文評でも説明しましたが、学習性無力感/絶望感のどん底で茫然としている我々に成り代わって、タイトル通りの善戦を続けています。
英文評論
シーズン2も、シカゴの法律事務所で働くダイアン・ロックハート(クリスティーン・バランスキー)、ルッカ・クィン(クッシュ・ジャンボ)、マイア・リンデル(ローズ・レスリー)の女弁護士トリオが主人公です。
(c) 2017 CBS Interactive, Inc.
一度はプロヴァンスで余生を楽しむ準備中だったダイアンは、危うくシカゴの法界から葬り去られそうになります。失脚の憂き目から救ってくれたのが、レディック・ボウズマン・コルスタッド法律事務所のエイドリアン・ボウズマン(デルロイ・リンド)でした。「少数派民族の機会均等ノルマを満たせる!」と冗談を言ってダイアンをリクルート。従来、白人社会に入り込めない「少数派」を雇用するのが機会均等ですが、レディック・ボウズマン・コルスタッドはシカゴでも数少ない’黒人の、黒人による、黒人のための’法律事務所ですから、60代の白人女性ダイアンを採用すると、年齢、白人、女性差別の3分野をカバーできると言うのです。
エイドリアン役のデルロイ・リンド。少数派に暴力を振るったシカゴ警察から何度も賠償金を勝ち取ったダイアン(バランスキー)を引き抜けば、鬼に金棒と判断したからだ。当時、もう1人のパートナーだったバーバラ・コルスタッド(エリカ・タゼル)は、ダイアンを追い出したくてウズウズしていたが、シーズン2第1話で意外な展開が....WENN.com
渡りに船と移転したダイアンですが、自分の事務所ではない上、異文化の違和感は否めません。やっと落ち着いた矢先、エイドリアンの元妻リズ・レディック=ローレンス(オードラ・マクドナルド)が、亡き父カール・レディック(ルイス・ゴセット・ジュニア)の名を継ぐべく、入所します。トランプを’白人至上主義者’とツイートして、シカゴの検事局を辞任せざるを得なくなった敏腕弁護士ですが、どうも下心があるようです。又、追い出されるのかと疑心暗鬼に取り憑かれるダイアンです。折から法外な弁護料を取られたはらいせに、シカゴの弁護士が次々と殺害されて行きます。「次は私?」と引き出しに忍ばせた拳銃に思わず手を伸ばしますが、事務所に忽然と出現した怪しげな「白い粉」には立ち尽くすのみです。
リズ・レディック=ローレンス(オードラ・マクドナルド)は再婚したが、元夫エイドリアンと働く羽目になる。検事局で取り扱っていたリンデル一族起訴事件について、ダイアンに時々情報を漏らしたり、クライアント獲得に余念がない等、事務所にとっては貴重な弁護士のように振る舞うが....果たして、吉と出るか凶と出るか? WENN.com
背景にあるのは、トランプの暴君振りが生み出す、秒刻みの「うっそー!?」の瞬間、「あり得ない!?」出来事です。しかも、トランプの汚水漬けになって、もう1年余りになりますから、’疲労’は半端ではありません。正義を貫いてきた’理想に燃える’進歩派弁護士ダイアンでさえ、為す術もなく、狂気の沙汰や修羅場に茫然と立ち尽くすのみです。いつ/誰に殺されるか分からない、うっかりものも言えない、誰も/何も信用できない...所謂被害妄想になっています。もう何も証明する必要がない、頂点を極めたデキる女ダイアンでさえ、トランプの悪政に苦しむ現況を「魂の闇夜」だと描写します。この救いの無い閉塞感や孤立感は、私が昨年来感じている学習性無力感/絶望感と読みました。「苦しんでいるのは、私だけではない!」と感じさせるカタルシス療法と言える「疑心暗鬼を生ず」のシーズン2です。さ、す、が、キング夫妻。又、見事なシーズンの再開です。
(左から)30台のルッカ(ジャンボ)、20台のマイア(レスリー)、60台のダイアン(バランスキー)。既に頂点を極めたダイアンは、公私とも穏やかな「惰力走行」を目指していたからこそ、世知辛い世の中を憂い、狂気の沙汰を日常化したトランプに楯突く。 Patrick Harbron/CBS
一方、巨額金融詐欺容疑で行方をくらましたヘンリー・リンデル(ポール・ギルフォイル)を炙り出すため、FBIはあの手この手で、愛娘マイア(26歳)を責めて来ます。2週間の抑留体験で、すっかり逞しくなったマイアですが、ダイアン、ルッカ、メリッサ・ゴールド(サラ・スティール)の力添えで、早々に不起訴となり晴れて職場に復帰します。巷の中傷、非難、捏造記事に苛まれながらも、駆け出しの怖いもの知らず故の’猪突猛進’に拍車が掛かり、華奢な身体からは想像できない底力にも磨きがかかりました。
サラ・スティールは、「グッドワイフ」でイーライ・ゴールド(アラン・カミングス)の娘メリッサを演じたお馴染みのキャラで復帰。「グッドワイフ」シーズン6で、アリシア・フローリック(ジュリアナ・マルグリーズ)のアシスタントとして活躍したが、「グッド・ファイト」では、ダイアンの’押し掛け’アシスタントからカリンダ顔負けの調査員に昇格する。 WENN.com
ルッカ(35歳)は、「魂の闇夜」を憂う暇もなく、仕事に没頭します。漸く出世街道まっしぐら!と思ったのも束の間、思いがけない私事(?)で脱線を余儀無くされた上、なんの因果か政界に引きずり込まれて行きます。今シーズンも、ルッカの私生活は謎だらけ、恋愛哲学は殊更不可解で、一体この人はどんな過去を引きずっているのだろう?と興味津々です。
待ちに待ったトランプ罷免の第一歩は、第7回目まで待たねばなりませんが、折に触れてトランプ叩きがしっかりと盛り込まれています。デキる女の鑑ダイアンが、此の期に及んで、薬の力で修羅場を笑い飛ばす場面は、同調して笑っているうちに、泣けてくること間違いなしです。余りの馬鹿馬鹿しさに辟易し、笑う以外に手がないからです。魂まで空っぽになってしまった今、虚しい笑いでしかありませんが....「幸せの秘訣は、鈍に徹すること」とダイアンは言います。言い得て妙です。
極めつけは、トランプ罷免をどの角度から攻めるべきかについて、レディック・ボウズマン・ロックハート法律事務所で討議する第7話の最後に流れる「Nobody's above the Law」の罷免キャンペーン・ビデオです。地上波局で流して、全米に広げて欲しい、的を得た傑作です。
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