昨年HBOで始まったコメディー「Veep」の根回しイベントが、去る6月5日に開催されました。シーズン2が終盤に差し掛かっていたので、イベントではシーズン2の最終回を試写して、キャストのパネルディスカッションという運びになっていました。
お気に入りのポスターの前で写真撮影。
昨年11月のブログで、政界内幕暴露モノの唯一のコメディーとしてご紹介しましたし、マイヤー副大統領を演じるジュリア・ルイス・ドレイファスが、昨年のエミー賞コメディー部門の主演女優賞を受賞したことを覚えていらっしゃるかもしれません。もっとも、日本ではドレイファスが出演するコメディーは、「となりのサインフェルド」と「ラリーのミッドライフ・クライシズ」が放送されたのみと理解していますので、知名度は今一つかもしれません。コメディアンとしては、「間」が最高です。
バツイチの狂気の沙汰を描いた前回のコメディーと比べると、演技力が要求される副大統領役に挑戦したジュリア・ルイス・ドレイファス。 Billy Bennight / PR Photos
「Veep」は、刺身のつまにもならない、いと哀しき副大統の日々を描くブラック・コメディーです。いずれは大統領と期待されたカリスマ上院議員セリーナ・マイヤーが、何の因果か副大統領に就任してしまいます。女性票を獲得するために利用されたと知りつつ、「大統領から電話あった?」と、ことある毎に秘書に確認するマイヤー。副大統領執務室は、ホワイトハウスから道を隔てただけと言うのに、大統領との接触は皆無、離れ小島できりきり舞いするような疎外感を感じています。大統領からお声がかかるのは、どうでも良い(失礼!)イベントでの大統領代行業務のみです。しかも、'でくの坊'ジョナ(ティモシー・C・サイモンズ)がホワイトハウスから伝書鳩のように飛んで来て、「今日は大統領と4回も接触(?)した」などと、副大統領執務室の神経を逆撫でします。
左からケヴィン・ダン、リード・スコット、アナ・チョムスキー、アルマンド・イアヌッチ。
所詮、副大統領職は、米国初の副大統領ジョン・アダムズに「人類が造り出した最も不要な職」と言わしめたほどの閑職なのです。ツンボ桟敷に置かれたマイヤーは、何とか軌跡を残すべく、使い捨てフォークやスプーンをコーンスターチ製に切り替えようと提案しますが、プラスチック業界=石油産業に吊るし上げられそうになり、あちらを立てれば、こちらが立たぬ、こちらを立てれば、自分の地位が危うくなる....我々庶民には想像もつかないジレンマに陥るマイヤーです。
ジョー・バイデン米副大統領とお目にかかった時の話をドレイファスが嬉々として語った。ひと言多いことで有名だが、苦労人として人気は高い現副大統領。 Paul Froggatt / PR Photos
更に、仕事のできない側近が、恥の上塗りを繰り返すマイヤーを深みに追いやります。’牛目’とけなされる、記憶力抜群のゲーリー(トニー・ヘイル)はマイヤーの右腕兼頭脳でもあります。口の悪さでは誰にも負けない、ヒステリックな首席補佐官エイミー(アナ・チョムスキー)、借金だらけなのに新車を買ってしまう、おとなしそうなのに大胆極まりない報道官マイク(マット・ウォルシュ)、ルックスを利用して出世を試みる報道補佐官ダン(リード・スコット)、唯一まともな秘書スー(スーフィー・ブラッッドショー)が、職場での火事(=混乱)に油を注ぎます。誇張されているのは承知で観ても、ドレイファスの指摘通り「ホラー」。それでも、事実に近いに違いない!と、爆笑してしまう怖?い世界です。
左からドレイファス、マット・ウォルシュ、トニー・ヘイル、スーフィー・ブラッッドショー。
本作の実力とタイトルに入れたのは、撮影7週間前にリハーサルを行い、7人の放送作家が現場で役者のやりとりを観察/記録し、即興で出た台詞の方が面白ければ、自然な会話になるように、書き直しを4回も繰り返すと聞いたからです。完璧な脚本を2度撮影し、更に編集時に最終の手直しをすると、クリエイターのアルマンド・イアヌッチが説明しました。手作り感を出すための手法とは言え、HBOならではの余裕たっぷりの制作には、開いた口が塞がりません。
ローラ・リニー主演の「The Big C」で誠実な担当医を演じたスコット。「Veep」のダンは、チャランポランで、出世のためには何でもする政界を泳ぎまくるサメ的存在だ。
あっぷあっぷもがきつつも、何とか威厳を保とうとするマイヤー役について、「特に誰かをモデルにした訳じゃないけど、仕事一途の、寂しくて哀しい人」と分析するドレイファス。「副大統領って、緊急時を想定して生まれた地位。通常は必要ない人間でしょ?哀しい訳だわ」とも。大統領にしてみれば、自分の後釜に座る人間など、そうそう目にしたくない!と言うことなのでしょう。
6月14から16日のHBO無料視聴日に、「Veep」シーズン2を通しで観ることができました。シーズン1も上出来でしたが、特殊な制作法が功を奏して、キャストの息がぴったりになり、ますます磨きがかかってきました。今後、何シーズンも継続して欲しい作品です。
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