プレスツアーが始まる前に、今秋の地上波局の新作を観ましたが、またしてもな〜んか納得できない、わくわく度の極めて低いシーズンです。「グッドワイフ」出現以来、唸る程の秀作は陰を潜め、更に「デキる女」がどんどん減少しています。'敢えて選ぶなら'新作は、後日局毎にご紹介しますが、この現象を何と解釈すれば良いのでしょう?
ジュリアナ・マルグリーズが演じる「グッドワイフ」のアリシアは、近年最もリアルな「デキる女」。シーズン4最終話で、遂に古巣を飛び立つ画策が暗示され、シーズン5は「内乱」がテーマで、アリシアの底力と過去4年に培った世渡り術が試される。 Andrew Evans / PR Photos
今夏、ツアーで久し振りにお目にかかった、嘗て「デキる女」のドラマ絶頂期に貢献したクリエイターに聞いてみましたが、誰からも納得の行く答えが出ませんでした。ジェームズ・ダフ(「クローザー」)からは、前回「次の周期まで待つしかない」と言われたと書きました。メレディス・スティーム(「コールド・ケース」「ホームランド」)は、現在「ブリッジ ~国境に潜む闇」に関わっているので、自閉症でありながら(自閉症であるからこそと言えるのでは?)、仕事一筋に生きるソニア・クロス(ダイアン・クルーガー)が「デキる女」だと言いますが....「ホームランド」のキャリー・マティソン(クレア・デインズ)の役作りに手を貸した張本人ならではの発言です。
「ブリッジ」でクルーガーが演じるソニアは、「自閉症」のレッテルを貼ってはいないが、誰でも遭遇したことがある「変人」として描かれている。空気が読めない故に、何もかもがぎくしゃくする世界に生きるソニアは、私が定義する「デキる女」ではない。 Andrew Evans / PR Photos
「グッドワイフ」のアリシア(ジュリアナ・マルグリーズ)や「クローザー」のブレンダ(キーラ・セジウィック)など、自立の道をまっしぐらに走る「デキる女」のお手本は、克服しなければならない「障害」は持ち合わせていません。
「クローザー」のセジウィックは、「デキる女」の最たる好例ブレンダを演じた。結婚はしたものの、飽くまで親になることを拒否したブレンダと、それでも去って行かなかった夫フリッツに乾杯!!! Bob Charlotte / PR Photos
女性向けドラマで名を馳せたABCでさえ、お伽の世界「Once Upon a Time in Wonderland」の主人公アリス(ソフィー・ロウ)を「デキる女」だと主張します。マジですか?ファンタジーの世界では、どうとでもなりますよ。お伽話を書き替えれば良いってものではないと思いますが.... ABCエンタテインメントグループ社長ポール・リーの発言だけに、開いた口が塞がりません。
「Once Upon a Time in Wonderland」でアリスを演じるロウ。アリスが2013年の「デキる女」だとABCは主張する。失踪した婚約者を探すためなら、逞しくなるのは当然では?「デキる女」の定義がかなり歪んでいる。 Andrew Evans / PR Photos
ケーブル局の新作は?と見渡したところ、今シーズンのヒロインは、遠い昔かファンタジーの世界の女性です。STARZ Channelの時代劇「The White Queen」は、英国の薔薇戦争の裏で「御家」を守るために画策したエリザベス・ウッドヴィル、マーガレット・ボーフォート、アン・ネヴィルの三女性を描きます。実在の三人は、女三界に家なしを絵に描いたような波瀾万丈の人生を送っていますが、美貌と画策で男/夫を操ります。中でも、唯一の平民エリザベス・ウッドヴィルは、母親が伝授した妖術まで駆使して、女王の地位を死守しようと試みます。女性に腕力/権力/財力もなかった15世紀、「御家」が力を得るための貢ぎ物あるいは道具として使っていた訳ですから、王家に嫁いで権力を手に入れたと思いきや....実は、単なる将棋の駒でしかありません。御家を守るためには、信仰か呪いをかけて邪魔者を蹴落とすしかありませんが、運命を左右するのは所詮男なのです。現代社会で役に立つような、お手本となる女性とは言い難いキャラです。家系や財産など、死守するものがある人は、大変ですね....21世紀になっても、富豪の世界では、同様の闘いが繰り広げられているのでしょうか?平民には、とても理解できない、油断も隙も無い人生です。
Lifetime局で10月から始まる「Witches of East End」は、不死身の魔女と魔女であることを知らない娘2人の複雑な関係を描くドラマです。こちらは超自然/ファンタジーの世界です。まだ、パイロットを観ていないので何ですが、男性受けするスーパーヒーローに対抗できるのは魔女しかないと言うことでしょうか?
「Witches of East End」原作本と、幻想的なカクテルが配られ、パネルインタビューのムード作りに加担した。
男性視聴者受けするオリジナル作品を次々と発表してきたHBOの編成のお偉方でさえ、女性受けするドラマが欲しいと公言しました。へー!?「Enlightened」を打ち切ったばかりだと言うのに?言う事と、やる事が相反していませんか?本音は、内容はどうであれ「SATC」に替わる作品=世界規模のヒット作が欲しいと言うことなのでしょう。
唯一の救いは、公共放送PBSの有名人の人生を綴るドキュメンタリー「American Masters」9月10日放送分のプロモーションに駆けつけた、70年代のテニス女王ビリー・ジーン・キングでした。運動神経に恵まれながら、女がトップに躍り出る可能性のあるスポーツを模索。テニスを発見し、「このスポーツならトップになれる!トップになったら、男女同権の旗を振ることができる!」と思ったのが12歳と言いますから、我々女性にとっては、舞い降りた天使としか言いようがありません。1973年、ボビー・リッグスとの男対女の試合を受けて立ち、全米が見守る中、完勝の快挙を果たし、女だってやってやれないことはない!と証明したあのキング夫人です。69歳ながら、女性の経済的自立を謳い、「まだまだやることは山とある!」と発言しました。「特に、日本は女性が自立しなければ、他国にどんどん遅れをとりますよ」の有難いお言葉。昨夏の「Half the Sky」のアーミ・バスと同レベルのパワーをもらいました。もっと、ゆっくりお話したかった....
「最近のテニスプロは見上げるほど長身で、首が痛くなっちゃう!」と何もかもが面白くて仕方がない口振り。「女性の選択肢と男女同権を守るためには、経済的自立が基礎」と、今後の活動の抱負を語る70年代のテニス女王キング。
更に、PBSでは、平日のニュース番組「PBS Newshour」のアンカーをベテラン女性キャスター二人に任せ、歴史上初の女性コンビが選んだ話題を女性が報道することになりました。やったー!!!!
グエン・アイフルは、アフリカ系+ラテン系を代表する、政界に詳しいニュースキャスター/ジャーナリスト。昨年、大統領選のオバマ対ロムニの討論会の進行係を務めた功績は大きい。
ジュディー・ウッドラフも、アイフル同様、政界に詳しいニュースキャスター。オクラホマ州タルサ出身の「アメリカ」を代表するにふさわしいベテランだ。
最早、女性は刺身のつまでも、職場に色を添えるお飾りでもありません。現実に女性の進出が目覚ましいと、自立の険しい道を描くドラマは消えていくのでしょうか?まだまだ、男女同権にはほど遠いと思いますが....
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