テレビ作品が現実(=人種の多様性)を反映していないと、所謂少数民族から文句が出て15年余りの米国ですが、ここに来て漸くアフリカ系やヒスパニック系、果てはトランスジェンダーまでがキャストに含まれるようになりました。まだまだ’お義理で配役?’感が残るのはアジア系のみですが、毎年主流が中国系、韓国系などと振れる中、今夏の数々のドラマを観て気づいたのは、2015~16年シーズンの作品はインド色が濃いと言うことです。
最も顕著なインド色は、9月7日の記事でお薦めしたABC「Quantico」の主役アレックス・パリッシュ(インド人+白人のハーフ役)に抜擢されたプリヤンカー・チョープラーです。ミス・ワールドからボリウッド入りした世界的に有名な女優で、知らなかったのはアメリカ人だけかも知れません。そのチョープラーがABCのお抱え女優になったと言うことは、例え「Quantico」がポシャっても、今後数年はチョープラーを全面的に押す意図があってのことと読み取れます。
ABC「Quantico」の主役アレックスに抜擢されたプリヤンカー・チョープラー。今年の’インド色’の中で、一際輝くチョープラーは、容姿、才能、好感度など、どれを取っても申し分がない。 WENN.com
主役級は、2012~15年自作自演の「The Mindy Project」で、コメディエンヌのみならずプロデューサーとしても地位を確立したミンディ・カリングが最も有名でしょう。2003年オフ・ブロードウエイから頭角を現し、数々の映画やテレビ出演を経て、「ザ・オフィス」アメリカ版のレギュラーを長年務めたインド系アメリカ人です。声に敏感な私は、カリングの甲高い声に拒否反応を起こすことと、コメディ業界での苦い体験が災いしているのか、カリングの心の奥深く秘められた’怒り’を感じてしまうため、残念ながらどうしても好きになれません。コメディアンの世界は確かに’怒り’をブチまけて笑いを取る人がほとんどですが、私は温和なコメディアンが好きです。
Foxで3シーズン自作自演したミンディ・カリング。今月末からHuluに鞍替えする「The Mindy Project」について、「Huluのオリジナル作品に加えてもらったことが、何より嬉しい!」と、8月9日のパネルインタビューで涙ながらに語った。 WENN.com
他にも列挙すると、インド系英国人のクナル・ネイヤー(「ビッグバン✮セオリー/ギークなボクらの恋愛法則」)、エミー賞助演女優賞に輝いたアーチー・パンジャビ(「グッド・ワイフ」)、ラザ・ジェフリー(「SMASH」「HOMELAND」)などが今世紀に入って、気長にアジア人俳優インド人部門を開拓してきました。パンジャビは、「グッド・ワイフ」降板後、直ぐに主役が決まっていると報じられていましたが、2015~16年シーズンのパイロットでは見かけませんでした。来春以降なのでしょうか?ジェフリーは、下記「Code Black」にハドソン医師として出演しています。
(左から)「ビッグバン」で、インド料理や人ごみが嫌いな’変なインド人’ラジェッシュを演じるクナル・ネイヤー、「グッド・ワイフ」シーズン1で彗星の如く登場し、ジュリアナ・マルグリーズより先にエミー賞を獲得したアーチー・パンジャビ、ここ数年テレビで活躍するようになったラザ・ジェフリー。 WENN.com
助演ではありますが、今秋初めて目にするインド系アメリカ人は、上出の9月7日の記事でお薦めした「Crazy Ex-Girlfriend」で、レイチェルの隣人でプー太郎を決め込んだヘザー・パテル役に3話以降登場する新人ヴェラ・ラヴェルです。パイロットしか視聴していないので、ラヴェルの芝居はまだ観ていませんが、ジュリアード音楽院出で、「Crazy Ex-Girlfriend」のキャストに選ばれたと言う事実から、トリプル・スレットであることに間違いないでしょう。芸能界にはまだ5年足らずの新人です。
新人ヴェラ・ラヴェルは、3話から「Crazy Ex-Girlfriend」のキャストに仲間入り。ベテランに混じって、どこまでジュリアードで学んだことを発揮するか、大いに楽しみだ。 WENN.com
もう一人、私が注目しているのは、「Code Black」(CBS)でマラヤ・ピネダ研修医を演じるメラニー・チャンドラです。2009年芸能界入りしたイリノイ州出身のインド系アメリカ人ですが、前出のチョープラーと同様、2007年にミス・インド・アメリカに輝いた美女です。スタンフォード大卒で、何と機械工学を専攻、4年生で学生自治会の会長を務める一方、チアリーダーとして活躍したり、空手の黒帯保持者と言いますから、正に才色兼備です。
CBSの医療ドラマ「Code Black」で、マラヤ・ピネダ研修医を演じるメラニー・チャンドラ。2014年には、短編コメディ「Bollywood Stripper」を制作する一方、HBOのコメディ「The Brink」でも女優としての実力を実証した。 WENN.com
【動画】「Code Black」トレーラー
「Code Black」のパネルインタビューでは、群像劇の一大キャストの一人として、発言の機会はありませんでしたが、セッション後、パイロットを観た時にキラリと輝いていたので期待していると立ち話をしました。2015~16年シーズンの新作はインド色濃いことを指摘しましたが、「この役は学ぶことが山ほどあるし、猛スピードで進むから自分の役をこなすことだけで精一杯です」との答えでした。何しろ、久しぶりの「ER緊急救命室」級の群像ドラマなので、チャンドラが演じるマラヤの人となりに行き着くのは、シーズン2以降かもしれません。
番組として、インドを前面に押し出すのはPBSが放つシリーズ「Indian Summers」とドキュメンタリー「India’s Daughter」です。米国ではPBSのMasterpieceと呼ばれる名作劇場の時間枠を設けており、世界的にヒットした「ダウントン・アビー」や「SHERLOCK/シャーロック」、シーズン2撮影中の「Poldark」など数々の名作を世に送り出してきました。Masterpiece傘下の最新作として9月27日にデビューするのが、新作「Indian Summers」です。
【動画】「Indian Summers」トレーラー
ヒマラヤ山脈の麓にあるシムラは、英国人統治者=政界の黒幕が、毎夏避暑に集まって来る小さな村です。未亡人シンシア(ジュリー・ウォルターズ)が牛耳るロイヤルクラブで繰り広げられる人間ドラマを描きます。英国領インド帝国の終焉を勘付き、必死でしがみつく英国人、盛り上がる反英感情や独立運動に勤しむインド人を対比します。1932~47年の15年間を描くMasterpieceお得意の歴史小説と言えるでしょう。
逆に、一見近代化したようで、実はカースト制度が根強く残る現代のインドの恥部を暴くのが、ドキュメンタリー「India’s Daughter」です。2012年12月に首都ニューデリーで起きた集団暴行を、被害者の両親、加害者、被害者死亡後のデモ行進、警察や加害者の見解、文化人のコメントを映像とインタビューで綴ります。男尊女卑文化や貧富の差など、事件の発端や背景を探りますが、世界中が見守る中、インドは変わるのでしょうか?こんな惨たらしい事件を目の当たりにして、国内のみならず世界中からプレッシャーがかかっているにも関わらず、インドはこのドキュメンタリー映画の公開禁止を言い渡しました。サンディーフック小学校以降、米国の銃乱射事件が、毎日一件の割で発生している事実に触れた時と同じく、また喉元過ぎれば…で終わってしまうのでは?と不安になります。
【動画】「India’s Daughter」トレーラー
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