TCAプレスツアーの一環として、1月に公開録画に参加したことは、2月16日の記事でご報告しましたが、今回は5月5日の「レイトx2ショー with ジェームズ・コーデン」の根回しイベントで入手した裏話をご報告します。
「レイトx2ショー with ジェームズ・コーデン」の根回しイベントも、エル・ポータル劇場で開催された。開場まで2時間余りあるのに、早々と行列が。(c) Meg Mimura
昨秋始まったばかりの「レイトx2ショー」のハイライトを披露して、会場の雰囲気が盛り上がったところへ、コーデンが登場。「すっごい!もうこれだけ放送したんだ!」と感激の一言を発して、挨拶しました。「毎晩、テレビでやりたい放題できるなんて、本当にラッキー」「最高に幸せ!」「エミー賞なんて恐れ多い!」など、セッション中何度も感謝の念を伝える謙遜なコーデンです。
左からモデレーターのビル・カーター、コーデン、ベン・ウィンストン、ロブ・クラブ。ウィンストンはコーデンの親友、英国でも番組を制作していた。米国側からは、クラブが関与。(c) Meg Mimura
英国では人気者のコーデンが、「放送開始10日前なのに、CBS撮影所に入れてもらえないんだ。顔パスが効かないってことじゃん、参ったよ。守衛の後ろには、’この顔’がデカデカとビルボードに出てるのにだよ。」と言います。「この国では知名度が低いからって、執行猶予期間なんてもらえないから、放送と同時に視聴者をつかんで離さないユニークな’何か’が必要だった。」と、英国から同行したウィンストンが付け加えます。
と言う訳で、この番組の代名詞になった「カープール・カラオケ」や「クロスウォーク・ザ・ミュージカル」などが誕生しました。現在、108本のビデオがオンラインで視聴できます。「カープール・カラオケ」は、英国でも制作していたそうで、1月にウィンストンから手順を聞いていましたが、この日はテクニカルな説明はありませんでした。先行車がコーデンを誘導するので、カラオケに専念できること、車内に7台のカメラが設置されていることがスムーズな制作に繋がっているのだとか....
カラオケの初ゲストは、歌姫マライア・キャリーでしたが、コーデンの度重なる誘導にも関わらず、なかなか乗って来ず、「冷や汗ものだった」と言う。何曲も不発に終わるが、撮影所に着く頃には....コーデンの冷や汗をじっくりご覧あれ。
CBS撮影所前(ジェネシーとビバリーの角)は、危険が一杯!コーデンが制作するヒット・ミュージカルが、横断歩道で上演される。信号が変わるのを待っているドライバーの反応に注目!但し、近辺をパトロールするお巡りさんから「今度、交通妨害したら、逮捕なのだ!」と警告を受けている。ショービズは命懸け!?
「世知辛い世の中なので、『ほんわか』がモットー」とは、昨夏の制作発表時のコーデンの言葉ですが、温かさと庶民的が売りです。又、単なるトークばかりでは、テレビと言う映像媒体を最大限に利用していることにならないので、「感覚的/視覚的に差別化しなければ、生き残れないと確信していた」と、プロデューサー達は舞台裏を披露。こんな機会は二度とない!と、コーデン始め関係者一同が果敢に全力投球している様子がひしひしと伝わってきました。
コーデン(左)とウィンストンはツーカーの仲だと言うが、ウィンストンの暖かい眼差しは、息子を見守る親のようだ。(c) Meg Mimura
ハリウッドへの殴り込みの感想を(英国人)参加者から尋ねられ、コーデンは「お世辞には頑張って!って言うけど、本音はやっかみの英国人に比べると、アメリカ人は裏表がない」と答えました。英国人気質って、日本人の本音と建前の狭間と同じなんですね?
私も、ハリウッドに落ち着いて15年余りになりますが、足を引っ張るのは、他でもない日本人です。ハリウッドに集まってくるクリエイティブな人種は、お互いの才能を敬い、真摯に成功を祈ってくれます。「居心地は満点!」と、評価したウィンストンに、乾杯!私も同感です。
ファンと歓談するコーデン。(c) Meg Mimura
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コーデンの全力投球が実った「レイトx2ショー」の裏話!
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「シリコンバレー」の心髄は?
※「シリコンバレー」シーズン1、2のネタバレがあります。
5月15日、ハリウッドにあるリンウッド劇場でHBOのコメディー「シリコンバレー」の根回しイベントが開催されました。日曜日だったので、交通渋滞がなく、すいすいと会場に到着しましたが、もう長蛇の列ができていました。
4月24日、シーズン3が再開されましたが、プレミア3日前(21日)にシーズン4の更新が発表された、まだまだ鼻息の荒いコメディーです。この日は、午後12時から同日夜に放送予定の第4話を試写してから、パネルインタビューが実施されました。私はシーズン2の第1話しか観ていなかったので、「へー、この人が....」とキャラの変遷に感心するばかりでした。その割には、リチャード(トーマス・ミドルリッチ)は、まだ足踏み状態?です。あれだけ苦難を乗り越えたのに、海千山千の起業家や投資家と張り合う自信は未だにゼロ。少しは逞しくなっていて欲しかったのに....
左からクリエイターのマイク・ジャッジ、プロデューサーのアレック・バーグ、相変わらず優柔不断のリチャードを演じるミドルリッチ。(c) Meg Mimura
アーリック役のT.J.ミラーは、開口一番「HBOは高くて加入できないんだけど、共演者の仕事ぶりを観るのは好き。」と意味不明の発言で参加者を煙に巻きました。更に、「アーリックは口だけが達者なペテン師だね。技があるとは思えない....」と笑いますが、シーズン2最終回でピンチを脱するため、プログラミングを披露しましたから、全く技がないとは言えないのではないでしょうか?但し、アーリックは自分の利益(権力と財力)を守る為には、何でも平気でやってのけますから、信頼できるキャラではありません。
ミドルリッチ(左)とミラー。友達でもない、上下関係、師弟関係でもない、摩訶不思議な関係を持続するリチャードとアーリック。敵?味方?が状況によって変わるので、油断できない。(c) Meg Mimura
モデレーターから「ジャレッドって、仏様みたいな人ですね〜」と褒められたザック・ウッズは、照れながら「いや、実は暗〜〜い過去がありまして....と言うか、自分なりに描いたジャレッドの過去を小出しにしているだけなんです。」と秘密を明かしました。社交性はゼロですが、マイナス思考ではないし、周囲に迷惑な行動、発言もしません。時々、ハッとするような発想を披露する根っからの善人。こんな友達が欲しい!と思うのは、私だけでしょうか?
フーリ社で毎日飼い殺し生活をしていたビッグ・ヘッド(ジョシュ・ブレナー)は、リチャードと一緒にデータ・コンプレッション・アルゴリズムを開発していた’繋がり’に目を付けられ、あれよあれよと言う間に出世していきます。この日観た第4話でも、豪邸に住み、アーリックの羨望の的です。ビッグ・ヘッドの無欲の勝利は、庭師から大統領候補に祭り上げられ、飄々と独り寂しい生活を送った映画「チャンス」を彷彿させます。
ラヴィーガ・キャピタルのCEOピーター・グレゴリー(クリストファー・エヴァン・ウェルチ)の後釜に座ったローリー(スザンヌ・クライヤー)も、雰囲気が読めないもテクオタクの最たるキャラです。リチャードに優しい唯一のキャラ、常識人モニカ(アマンダ・クルー)には、ローリーは飽くまで謎で、しょっちゅう「へー、そんなことしちゃうの?!」「そんなこと言っても大丈夫?」的眼差しを向けられています。
左からウッズ、ブレナー、クライヤー。各自が演じるキャラは、リチャードを中心に回る衛星だが、現在の力関係が将来どうなるか、シーズン毎にどう変わるのかが、本作の見どころ。(c) Meg Mimura
制作陣は、番組ファンの入れ込みを重んじて、今後の展開を慎重に検討していると語りました。負け組が圧倒的な勝利を手にしてしまえば、「シリコンバレー」の前提が崩れてしまうので、「成功と失敗のバランスの問題。金で解決できない問題は、山ほどあるからね」と言うのはジャッジ。要は、パイドパイパー社の創始者間で、力関係がどう変わるか?が、このコメディーの心髄なのです。
ファンと記念撮影するミドルリッチ(右)。ミドルリッチの地=リチャード?と思うほど、おどおどした様子だった。(c) Meg Mimura
日曜日の正午から始まった根回しイベントは、午後2時過ぎに終了しました。会場を出ると、お腹を空かせた参加者を待ち受けていたのは、メキシコ料理のバイキングでした。ビールやワインも飲み放題です。何故、この日も(「Veep」と同じく)メキシコ料理だったのかは不明ですが、日曜日の昼下がり、十分楽しませて頂きました。
「グッドワイフ」にジェフ・デリンジャー(アリシアの会話を盗聴していた米国家安全局の契約局員)として4話(2013〜16年)出演していたウッズに、フィナーレの感想を聞いた。「ちょっと暗かったけど、秀作にふさわしい終わり方だったと思う」とコメントしてくれた。今シーズン、あのキャラはどうなったのかな?と思っていたら、登場してくれたウッズとアナ・キャンプ(デビッド・リーの姪ケイトリン)に感謝したい。(c) Meg Mimura
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テレビアカデミー本部、2年弱振りにリオープン
2014年8月26日以降、米国テレビ芸術科学アカデミー(ATAS)本部の拡張改築のため、旧館の事務所以外は閉鎖されていました。およそ2年振りの去る6月1日に完成、リオープンし、2日には、テレビ芸術科学アカデミーから一般に親しまれてきたテレビアカデミーに名称を変更、また組織設立70周年を祝って、テレビ業界の大物や古株が祝賀パーティーに集いました。
先ず、4月15日にエミー像が戻ってきたと聞きつけ、早速ビデオを観ました。2年近くもノース・ハリウッドから姿を消していたエミーが新居に戻ってくる旅をご覧ください。いつも下から見上げていたエミーを、真正面から見たのは初めて。想像していた顔と余りにも違うので仰天しました。
※上記動画が再生されない場合はこちらをクリックしてご覧ください。
テレビアカデミーの会員(管理職ではなく、現場で一番きつい仕事をしている下っ端)は、6月3日のオープンハウスに参加しました。但し、同日午後7時からABCの「Fresh Off the Boat」のエミー賞根回しイベントがハリウッドで開催されたため、オープンハウス参加者は意外と少なく、芋の子を洗うような混雑にはなりませんでした。
午後5時30分頃に到着し、日没前に撮った写真。エミー像の背後にガラス張りの近代建築物が新設された。 (c) Meg Mimura
テレビアカデミーの’キャンパス’には、ハイーム&シェリル・サバン夫妻が寄贈したサバン・メディア・センターが新築されました。センター1階、これまでイベントや映画試写会場だったレナード・ゴールデンソン劇場は、最新鋭のドルビー・テクノロジー(音響、映写機器)の粋を集めたウルフ劇場に生まれ変わりました。「法と秩序」シリーズやシカゴ・シリーズ(「シカゴファイアー」や「Chicago Med」「Chicago P.D.」など)で財をなしたプロデューサーのディック・ウルフ夫妻が寄贈したので、ウルフ劇場と命名されました。
劇場ロビーに設置されたバー。背後にはモニターが3台設置され、エミー賞授賞式やイベントの記念写真を映し出す。 (c) Meg Mimura
この日は、夏日で午後6時でも気温が下がらず、センターに入るや否や、会員は冷たい飲み物を求めてバーに殺到しました。劇場には、午後7時まで入場できないので、ロビーの壁に展示されたスポンサーを見たり、ドルビーの3Dスクリーンの小型展示(と言っても、優に70インチはある)を鑑賞しました。確かに画面が明るく、色が鮮やかで、我が家にも一台欲しい!ものです。(笑)
劇場ロビーには、センター拡張改築に多額の寄付をした組織名が展示されている。タイム・ワーナー、ディズニー、21世紀フォックス、ネットフリックスが四大スポンサーだ。 (c) Meg Mimura
午後6時30分辺りから、夕食が振舞われ始め、皆ロビーを後にして屋外に。広いキャンパスを利用して、アジア風、イタリア、アメリカ料理のテーブルで好きなものをお皿にとるバイキング形式です。アジア風は牛肉の串焼きと中華風チキンサラダ、イタリアンは、パスタ2種とシーザーサラダ、アメリカ料理はスライダー2種(超小型ハンバーガー)とフライドポテトと、バラエティーに富んでいました。今年の根回しイベントに比べれば、長蛇の列もなく、食べ物も飲み物もふんだんにあり、落ち着いた雰囲気の立食パーティーでした。
立食パーティーは、センター前の広場で行われた。キャンバス全景を2階の会議室から撮影。 (c) Meg Mimura
午後7時になり、やっと入場が許可されました。暗い廊下を通り抜けると、目の前に広がったのは、階段教室風の会場でした。以前は、アールデコ調の落ち着いたインテリアでしたが、新劇場はドルビー・ラボラトリー社の最新鋭の技術を集めたドルビー3Dシネマになっていました。120個のスピーカーを使ったドルビーアトモスで、世界最新鋭の劇場ですが、今後10年間、無料で技術更新が確約されています。
階段教室のように急斜がついており、以前より座席が大きくて座り心地満点。また、座席の位置に工夫が凝らされていて、前に背の高い人が座っても、視線を遮ることがない。 (c) Meg Mimura
最新鋭の技術の粋を集めた映像が披露され、画像や色の美しさは現実以上で、目を見張るばかりでした。但し、サラウンド音響効果は、床が揺れるほどの迫力で、後部席に座らなければ、映画1本を乗り切る自信はありません。私が音に異常に敏感なのか、それともほとんどの観客は聴覚を失っているのか?劇場を出てから、誰からも音量に文句が出なかったので、やはり私の問題のようです。耳栓持参しかありませんが、スピーカーは床にも設置されているので、どうしたものでしょうか?
2階には、テレビアカデミー傘下のアカデミー財団の職員が引っ越ししてくる予定ですが、まだ空のスペースを見ることが許されました。2階角にある会議室は、ガラス張りのオシャレなスペースです。
見学が終わって外に出ると、もう夕闇が迫っています。この日のために、巨大な照明器具が持ち込まれて、センターは紫色に、休館はオレンジ色に照らし出し、幻想的な雰囲気を醸し出します。
黄昏時のエミー像とテレビアカデミー旧館。改築前は、噴水の中にエミー像が立っており、並木と水の音が都会のオアシス風で爽やかだったが、すっかり都会化してコンクリートジャングルになってしまった。 (c) Meg Mimura
もっと緑を取り入れて欲しかったな~。噴水は残しておいて欲しかった....など、不平不満がない訳ではありませんが、文句を言える立場ではないので、とにかく最新鋭の劇場で映画やイベントを楽しみたいと思います。
いつか!と狙っているエミー像の前で。 (c) Meg Mimura
ドルビー・テクノロジーの実演が聴覚、視覚を余りにも強烈に刺激したため、この夜は一睡もできませんでした。発光体が脳に及ぼす影響を再度、思い知らされました。
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昨今押し寄せるアンチヒロインのうねり「UnReal」
元々、女性向けのケーブル局として1980年代から君臨していましたが、ケーブル局数の増加に引き続き配信形態の複雑化で、完全にニッチを失ってしまったLifetime局。昨年、同局がオリジナルドラマシリーズとして発表した「UnReal」がヒットし、名誉あるピーボディー賞まで受賞して、久々に脚光を浴びています。故に、エミー賞も夢ではありません。このイベントで、投票者の心を鷲掴みにしようという意気込みを感じました。
「UnReal」については、2015年6月1日に放送開始となったシーズン1を同日「シリ・アップルビーの新作『UnReal』はリアル過ぎて辛い!」でご報告しました。本年6月4日、午後5時からハリウッドで開催されたエミー賞根回しイベントは、6日(月曜日)午後10時開始のシーズン2への期待感も高く、会場は女性ファンで満席となりました。
土曜日の夕方とあって、ハリウッドはまだ車でスイスイと走れましたが、ご多分に洩れず、毎回一番乗りして最前列に陣取る連中が、既に到着して並んでいました。ガラス越しに中を覗くと、ロビーの片隅には、超短いレッドカーペットが設置されています。開場30分前あたりから、正面入口に次々と番組関係者が到着して、レッドカーペットに向かいます。開場5分前に、あたふたと駆けつけたのは、英国ホテル王の御曹司アダム役のフレディー・ストロマでした。ストロマの腕に嬉々とぶら下がっているのは、劇中リアリティー番組「Everlasting」の相手役アンナを演じたジョアンナ・ブレイディではありませんか?番組が取り持った縁とは、正にこのことです。
劇場に足を踏み入れると、銀幕にはシーズン2の番宣ポスターが掲示されている。最近の業界誌には、シリ・アップルビー(レイチェル役)はエミー賞主演女優カテゴリー、コンスタンス・ジマー(クィン役)は助演女優カテゴリーに推薦したことが取り上げられている。何でも今年は俳優名をアルファベットの逆順(ZからA)で一覧表にしたため、ジマー(Zimmer)の方が有利だと報道されているが、私は実力から判断してジマーがノミネートされる確率は高いと診ている。 (c) Meg Mimura
レッドカーペットが長引いたため、予定より30分余り遅れて、シーズン1の最終回が試写されました。もう、4回くらい観てるんだけど....とついつい、居眠りしてしまいました。終了後、舞台にクリエイター、プロデューサー2人とアップルビー、ジマー、ストロマが登場し、パネルインタビューが実施されました。
左からモデレーターのエリザベス・ワグマイスター(ヴァラエティーTVレポーター)、サラ・ガートルード・シャピロ、アップルビー、ジマー、ストロマ、ステイシー・ラカイザー。 (c) Meg Mimura
創作に手を貸したベテラン放送作家マーティ・ ノクソンは退き、シーズン2から新たにロバート・M・サートナーとステイシー・ラカイザーが制作に加わりました。うん十年前(?)ABCの「The Bachelor」で働いていたシャピロの体験を基に本作が生まれましたが、「The Bachelor」の司会者クリス・ハリソンが「『UnReal』は目も当てられない!」と酷評した事実をモデレーターが早々に持ち出しました。
「クリスは職場の同僚だったけど、辞めてからは連絡したこともないわ」とシャピロが答えます。劇中の嫁取り合戦「Everlasting」の司会者グラハム(ブレナン・エリオット)を、スター気取りの薄っぺらなナルシストとして描いている事実を見れば、取るに足りない人間のコメント等、痛くも痒くもないに違いありません。そこへ、ジマーが「コメントするってことは....ご視聴、ありがとうございます!って言いたいわ」と茶々を入れます。会場が大いに湧いた所へ、シャピロが「今朝、あの頃の上司から電話があって、現実は『UnReal』よりもっとひどい!って、私の作品を褒めてくれたもの」と明かしました。えー、本作よりもっと卑劣な番組に出たい人って、性格が歪んでいるのか、売名行為のいずれかとしか考えられません。
パネルインタビュー終了後、投票者へのサービスとして写真撮影に応じる(左から)アップルビー、テレビアカデミー会員、ジマー。 (c) Meg Mimura
長年ジマーのファンなので、「UnReal」の制作発表時から応援してきました。ジマーならではの助演キャラ作りに常に圧倒されてきましたが、初めてインタビューした際、「主役じゃなくても、味のある役を選んできた」と述べました。性格俳優的要素を持っているジマーならではの答えですが、「UnReal」のクィン役も「飽くまで助演だと思っている」と言います。そうでしょうか?同様のアンチヒーローがテレビ界では長年横行してきた事実を指摘しましたが、「リアリティー番組作りに関わっていると、女だからって容赦してくれないもの。敏腕プロデューサーって、男も女もこんなものよ!」と舞台裏を披露しました。
もともと、クリエイターの夢のキャストがジマーで、「数回丁重にお断りしたんだけど、それでもめげないサラ(シャピロ)に根負けしたの」と笑います。「こんな暗い、卑劣な女をどう演じたものか?全く、検討もつかなかったから」が何度も辞退した理由です。パイロット版をモニターに観てもらった時に、笑いが取れるのは気詰まりな雰囲気でクィンが発する一言だったため、「私には笑わせる能力はないけど、セリフを言うだけで良いんだって悟ったの」と言います。「心地良いことばかりやっていたのでは、人間は進歩しないでしょ?恐怖心に真っ向から立ち向かわなければ!」とは、ジマーの人生観です。
シーズン1放送中に街でジマーに声をかける人達は、「ガラガラ蛇に近付く感じ....?」だったとか。応対しているうちに、「流石、女優さんですね。演技なんですね?」とクィンからは全く想像もつかない温和な人柄を褒められるそうです。人柄然り、衣装も然りで、普段はピチピチのミニドレスやハイヒールには無縁の生活をしているので「衣装に手を通すと、クィンに成り切れるから、制服みたいなものね!」と役作りを披露しました。
シーズン2で、逸話監督を果たしたアップルビー。「セットで育った子なので、いつか演出するのが夢だったの。でも、演出と同時に演技って、疲れるわ!」と語った。この日は、機嫌が良かったのか、根回し運動のサービス精神に目覚めたのか、気軽に写真撮影に応じてくれた。 (c) Meg Mimura
シーズン2は現在進行中ですが、第1話から前シーズンとは全く別世界です。シーズン1では、クィンの要請で渋々職場に舞い戻り、尻を叩かれて漸く、クィンの言いなりになっていたレイチェルが一念発起!二人とも男に失望、その分、金と力を手に入れようと、益々仕事に没頭します。クィンが制作総指揮の座に昇格し、愛弟子レイチェルを、番組プロデューサーに抜擢します。そして、花嫁候補を操る役目は、一見純情そうなインターンにお鉢が回ってきますが、蓋を開けてみると....これまで男どもにあらゆる面で牛耳られてきた女達が謀反を企て、リアリティー番組制作現場は、アンチヒロインの巣窟となって行く過程が描かれます。
レイチェルを演じるに当たって、同様の仕事をする女性プロデューサー達に「花嫁候補を操ることに後ろめたさは感じない?って聞いたら、『それじゃ仕事にならないわ!』と皆に言われちゃった」と驚きを語るアップルビー。
男に失望した寂しい女が仕事を生き甲斐とした時、職場が’家族’に取って代わり、こんな不健康な所に長居すれば、ボロボロになると解っていながら、辞められない....他に生きる場所がないから....実に侘しい、凄まじい世界です。本作は、今米国テレビ業界に押し寄せるアンチヒロイン・ブームの第一波として、うねる大波に変わりつつあります。
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女子大生モニカは霊能者!生まれて初めてリーディングに参加
「ミディアム 霊能者アリソン・デュボア」を覚えていらっしゃいますか?2005~11年まで、7シーズン続いた犯罪捜査ドラマで、日本ではドラマの基になった実在の霊能者デュボアが訪日して人気を博しました。「ミディアム」が画面から姿を消してまだ5年しか経っていないと言うのに、遠い遠い昔のような気がするのは何故でしょうか?
過去5年、霊能者として世界的に有名なジョン・エドワードやジェームス・ヴァン・プラグなどを時折テレビで見かける以外、巷ではミディアムと言う言葉をほとんど聞かなくなりました。但し、私はこの分野に大いに興味があるので、クリント・イーストウッド監督の映画「ヒア アフター」(日本では2011年2月公開)を観て、大いに感動しました。死が取り持った3人が、生きる喜びを見出す、小粒ながらキラッと輝く癒し系の良い作品です。
この映画の影響かどうかは定かではありませんが、2011年、TLC局に「Long Island Medium」が登場しました。タイトル通り、NY州ロングアイランドに住むテレサ・カプートが、霊視する様子を記録したリアリティー番組で、今年で何と8シーズン目となりました。’テレサおばちゃん’と呼ぶに相応しい霊能者は、ロングアイランドの土地柄を絵に描いたような所謂大阪のおばちゃん風のどぎつさで、好き嫌いが二分される上、メディアでリーディングの仕掛けを叩かれてきました。シーズン3辺りまで最高時には300万人余りの視聴者がついていましたが、シーズン8ともなると、100万人まで低下しています。更新されるかどうかは、現時点では不明ですが、ほとんど毎日のように全米のあちこちで’テレサおばちゃん’のリーディングが実施されています。
一方、今年1月E!局で放送開始となった「Hollywood Medium with Tyler Henry」は、’もやし風’青年がハリウッドのセレブ相手に霊死するリアリティー番組です。しかし、大切な人を亡くした悲しみを公にしているセレブばかりを集めている点が、被害者をターゲットにしている、ケシカランと叩かれています。本日、シーズン2は8月17日再開と報道されました。
2015年、Freeform局で始まった「Monica the Medium」は、女子大生モニカ・テン=ケイト(22歳)が、天職/学業/恋愛や友情をバランス良くこなそうと四苦八苦する模様を記録していました。シーズン1は、ペンシルベニア州立大学に通うモニカが、霊能者として体験を積んで行くうちに、学業も人間関係も疎かになり、何とかバランスを取り戻そうと奮闘。しかし、モニカは大学側には煙たい存在で、キャンパスや授業風景の撮影許可が下りず、学業の部分の映像が不足していました。
霊視工程を勉強中のモニカが、1)これまで明かされなかった技術を説明する点と、2)女子大生として普通の女の子になりたいのになれない点が新鮮で、私はすっかりハマってしまいました。これは、Freeform局が14~34歳の若者を対象に番組作りをしているからで、特にリアリティー番組は、どんな職種に就こうか?天職は何か?と試行錯誤する世代に訴えます。又、「ミディアム」のアリソンとは異なり、悪霊、怨霊などとは交信しないように、意図的に避けている事実や、失踪者の居所など犯罪捜査には一切踏み込まず、癒しのメッセージのみを受信するように心がけていることも、モニカは明らかにしました。意図的に回路を塞ぐことができるとは....意外でした。
シーズン2は、サンディエゴの海辺に一軒家を借り、女子大生ルームメイト3人と団体行動するモニカ・テン=ケイトの日常を記録。彼氏も見つかり、仕事も順調で幸せそうなモニカ。 (c) Freeform/Sandy Huffaker
シーズン2は、私が長年住んでいたサンディエゴに引っ越したモニカの生活を追います。特にカールスバッド近辺には、スピリチュアルの権化が多数集まっており、モニカが漸く天職と認めた霊能者として師事する人が、より取り見取りと言うことです。モニカが選んだのは、他でもないジェームス・ヴァン・プラグで、一緒に公開リーディングをするほどの、気に入られ様です。サンディエゴ北部にあるミラ・コスタ短期大学に移籍し、天職を宣伝する為のマーケティング(特にソーシャル・メディア)を勉強することになりました。但し、毎回増えて行く仕事とデート量に、学業は押し潰されて隅っこに追いやられてしまった感が無きにしもあらず....シーズン1と同じく、学業は優先順位が低いのです。番組を撮影していない期間に、しっかっりお勉強してくださいよ。
シーズン2開始直前に電話インタビューが許されたので、それを元に番組評を書きました。
http://www.familychoiceawards.com/entertainment/monica-the-medium-season-2-premiers-april-25/
シーズン1では、街行く人やレストラン等で「他界した霊を読むのが仕事なの」と自己紹介する際、一瞬ですが躊躇を感じました。相手がどう反応するか恐る恐るだからで、「公式書類に職業を書き込む時、びびっちゃうの」と打ち明けました。過去に浴びた非難や罵詈雑言が未だに尾を引いているのに違いありません。ミディアムと言う言葉ではなく、「ヒーラーを使う方が、無難かも?」と老婆心ながら提案しました。
未練を残したまま他界した霊、加害者を恨まないよう、残された家族に伝える被害者の霊、死に水を取ってくれて有難うと伝えたくてウズウズしている霊など、霊も十人十色ですが、第二の人生に踏み出せないこの世の人にとって、モニカは癒しそのものです。又、モニカが読み取る些細な点には、仰天するばかりですが、霊は英語で話す訳ではなく、提示されるイメージ、音、感情などを翻訳して英語で伝えるのがモニカの腕の見せ所です。故に、経験を積めば積むほど正確に翻訳できるようになりますが、ミディアム駆け出しモニカの微に入り細に渡るリーディングは目を見張るものがあります。
インタビュー終了時に、「お母さんの存在を感じる」と電話口で言われました。広報担当者にせっつかれて、電話を切らなければならなかったので、近い内にサンディエゴに会いに行くと言うと、4月29日にLAで予定されていた公開リーディングに招待してくれました。
生まれて初めて参加したリーディングは、約3時間近くに渡って、モニカが感じる/読み取れる霊が誰か、他界してどのような生活を送っているのか、どのような形で残された家族や友達に自分の存在を知らせているか、今後どのように生きて欲しいか等を、矢継ぎ早に伝えます。この日は、何故か舞台下手にリーディングが偏っており、モニカが中央に歩み寄っても、すぐに下手に呼び戻されてしまいます。
リーディングは、およそ3時間続いたが、ほとんど舞台下手に集中。上手にはアリゾナから8時間車を走らせて参加した女性グループもいたが、霊が姿を現さなかった。 (c) Freeform/Eric McCandless
私は、他界した両親との交信を期待して参加した訳でもなく、リーディングへの興味本位で観察しました。敢えて言うなら、想いを寄せている人の本音を読んでもらいたいものだと思うのですが、モニカの日常は正にその葛藤なのです。家族や彼氏が何を考えているかは、読めないからです。見ず知らずの他人を癒すことはできても、自身や家族はお座なりになりがち....もっとも、人命救助に関わるプロ(消防士、医師、警察官など)は、皆同じ悩みを抱えています。
小柄で可愛いモニカは、’ノー’と言えないのが玉に瑕。経験を積めば、自分優先になれるか?
(c) Freeform/Eric McCandless
霊界からのメッセージを伝える作業は、集中力を必要とし、頭脳がフル回転できる数時間が限度です。私が昔取った杵柄(=通訳)と同じく、数時間経つと脳が完全に操業停止してしまうんだろうなぁ....とモニカの働きぶりを傍観していました。それでも、楽屋でインタビューに応じてくれると言うので、順番を待つことにしました。ところが、どこからともなく姿を現した男女カップルが割り込んできて、楽屋の戸が閉まって小一時間。「忙しそうだから、もうインタビューは諦めます」と、何度も広報担当者に伝えましたが、それでも「もうちょっと待って。すぐ終わるから」と引き止められてしまいました。
思った通り、モニカは憔悴しきっており、しどろもどろ!です。「異文化の霊を読むことはできますか?」と尋ねました。私の母は物静かな人だったし、英語は喋れないので、声高の霊に圧倒されて、モニカが読み取れなかったのかも知れないと言う素人考えでした。全く知識のない異文化の霊でも、読み取って言葉にして行く内に、聞いている方が「あー、それは○○○のことです」と推測してくれるので、問題はないそうです。
「来世では、何になりたいですか?」と尋ねましたが、「うわー、良い質問だけど、考えたこともなかったわ」と言うモニカ。未だ若いからでしょうか?しばらく、考えた挙句の果てに、「今と同じ、ヒーラーの仕事が良いわ!」と言うモニカでした。来世でも、人助けに余念がないとは、根っから殊勝な魂に違いありません。
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祝チャンドラー&メンデルゾーン!「Bloodline/ブラッドライン」の魅力
※「Bloodline/ブラッドライン」シーズン1、2についてのネタバレがあります。
日本でも、昨秋から配信されている「ブラッドライン」は、米国では2015年3月20日、鳴物入りでデビューしたネットフリックス社のオリジナルドラマです。どんな’鳴物’だったかは、3月25日の「国民的英雄コーチ・テイラーのTV復帰作」で説明しました。番宣の甲斐あって、シリーズ初年度に、主役ジョン・レイバーンを演じたカイル・チャンドラーとダニー役のベン・メンデルゾーンが、エミー賞ドラマ部門の主演、助演俳優カテゴリーに夫々ノミネートされ、実力が認められました。チャンドラーのTV復帰作として、大成功を収めたのは喜ばしいことです。但し、最優秀ドラマ候補には挙がらなかったのは腑に落ちませんが、エミー賞候補の選出は不可解の一言に尽きますから、サラッと流すことにしました。
チャンドラー自身の言葉を借りると、本作は「そろそろイメチェンが必要かな?」と思っていた矢先に転がり込んだ’汚れ役’で、精神的にも肉体的にも、「これまで体験したことのない挑戦だった」と、昨年5月に開催されたエミー賞根回しイベントで苦労のほどを語りました。俳優には投票できないながら「絶対エミー賞につながる出来映えですよ!」と絶賛しましたが、励ましの言葉が嘘にならなくて良かったと、ほっと安堵しました。俳優グループの皆々様、ご投票ありがとうございました。
チャンドラー(左)とグレン・ケスラー。今年5月にNYで開催されたシーズン2プレミアの特別試写会。(c) Steve Cohn/Netflix
シーズン1は、第一話からレイバーン家の’面汚し’ダニーへの怒りと、ジョンが家族(特に両親)から押し付けられた’救世主’役への恨み辛みが徐々に高まり、第十話で募り募った怨極まって、ダニーに手をかける展開でした。レイバーン一族が「木っ端微塵」になる過程をスローモーションで描き、同時に火種がどこなのかが明らかにされました。
衝撃的な第十話を絶賛する評論家は、「シーズン2は1を上回ることは到底できない」と其処此処で宣言していますが、トッド・A・ケスラー、グレン・ケスラー、ダニエル・ゼルマン(クリエイタートリオ)の主旨に漸く突入するのが、シーズン2以降ではないでしょうか?シーズン1は、飽くまでもレイバーン一族が織り成す愛憎模様を症状として描き、家長ロバート(サム・シェパード)と諸悪の根源ダニーの死後、一家の力関係が如何なる変遷を遂げるかを、シーズン2以降で描こうとしている意図が読み取れます。クリエイタートリオは、家族の秘密、生まれ順に形成される性格、兄妹の力関係などを血縁のしがらみと定義しています。
これから佳境に入ろうとしているドラマに、「未来はない!?」な~んて、近視眼的観測ではありませんか?配信開始前に、執筆した番組評をご一読ください。
番組評
シーズン2は、兄を殺めたジョンと屍体の始末や証拠隠滅に手を貸した三男ケヴィン(ノーバート・レオ・バッツ)と末っ子メグ(リンダ・カーデリーニ)の関係が悪化の一途を辿ります。ダニーと言う名の’敵’を失い、一丸となって闘ってきた兄妹の絆が音を立てて崩れ始めます。ジョンほど切れないケヴィンとメグは、口占を合わせることさえできず、秘密がバレることを恐れて、現実逃避に走ります。共通の敵が消えた今、お座なりしてきた心痛の種(恥、嫉妬、後悔、自責の念等)に正面から立ち向かう’自分探しの旅’を余儀なくされてしまったからです。
ジョンは案の定、ダニーの亡霊に苛まれ、ダニーの息子だと名乗りを上げて我が家に乗り込んだちんぴらノーラン(オーウェン・ティーグ)の正体を探ります。ロバート亡き後、家長の座についたサリー(シシー・スペイセク)は、溺愛してきたダニーの死を調べるうちに、救世主に仕立て上げたジョンが隠し事をしていることに気付き、疑心暗鬼になります。19歳で産んだ長男ダニーが不慮の死をとげ、守り切れなかったという自責の念に駆られているからです。
NYの弁護士事務所で働き始めたメグ(カーデリーニ・左)も、事あるごとにフロリダに呼び戻されて、ジョン(チャンドラー)の隠蔽工作の片棒を担がされる。メグはアルコールに、ケヴィン(バッツ)は薬物に依存して現実を逃避しようとするが....(c) Saeed Adyan/Netflix
四面楚歌のジョンは、保安官事務所や麻薬取締連邦捜査官の目を盗んでは、証拠隠滅やもみ消しに余念がありません。パートナーのマルコ(エンリケ・ムルシアーノ)は、聞き込みを続ける内、ケヴィンに接近し、ジョンの神経を逆撫でします。ダニー殺害の罪を着せた筈の地元の麻薬元締めラウリーには恐喝されて違法行為を強いられ、ジョンはどんどん深みにはまって行きます。嘘を嘘で上塗りしているので、休まることがありません。こんな緊迫状態をいつまで続けられるのでしょう?
ダニー殺害の真犯人割り出しに躍起になるマルコ(ムルシアーノ・左)と、捜査を撹乱しようとするジョン(チャンドラー)は、常に正面から衝突。バレるのは時間の問題だ。 (c) Saeed Adyan/Netflix
チャンドラーの’品行方正、実直なイメージ’を逆手にとり、これでもか!これでもか!とクリエイタートリオが突き付ける挑戦を受けて立った私は、独りできりきり舞いしているジョンに救いの手を差し伸べたくなります。ジョンがとった信じ難い行動は、正に「窮鼠猫を噛む」そのもので、失うものが山とあるジョンが、諸悪の根源を葬り去ったのは当然のこと!と、自分なりに弁護しています。逆に、極限まで追い詰めて、偽善者ジョンの真の姿を暴いてやろうと言うダニーの復讐だったのではないか?と勘ぐりながら、シーズン2を観ました。
保安官事務所で、捜査を検討する(左から)チャンドラー、デヴィッド・ザヤス、ムルシアーノ、その他。 (c) Saeed Adyan/Netflix
ネットフリックスは、’一気観’が売りなので、ストリーミング開始日直前に番宣活動をするのみで、開始以降はうんでもすんでもありません。何シーズンも更新されている作品には、広報の予算が出ないの?と聞きたくなるほど、お粗末です。大手媒体のみにインタビューを許可し、毎年NYで継続作品のプレミアを大々的に行うことでお茶を濁します。インタビュー動画や記事を片っ端からチェックしたところ、チャンドラーは「この役で死ねたら本望!」的発言を其処此処でしています。相談相手もおらず、周囲を全て敵に回して、自爆寸前の時限爆弾になってしまった緊迫感を何シーズンも続ける訳には行かないので、シーズン2がジョンの正念場ではないかと懸念しています。
チャンドラーの演技が業界で今年も認められ、シーズン3も更新されたが、パラノイアと張り詰めた緊迫感は、いつまで続けられるのか?クリエイタートリオは、「5~6シーズンは続けたい」と発表している。 (c) Saeed Adyan/Netflix
今朝、2016年のエミー賞候補作や俳優が発表され、最初に名前が読み上げられたのが、チャンドラーでした。昨年同様、メンデルゾーンも助演男優賞候補に上がり、今日は一日ルンルンと過ごしました。俳優グループの皆々様、今年もありがとうございます。
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回り回って、振り出しに?堂々巡りの「SUITS/スーツ」と「Tyrant」
※「Tyrant」シーズン1~3、「SUITS/スーツ」シーズン5、6についてのネタバレを含みます。
架空の中東の国アブディンを舞台に繰り広げられる家族ドラマとして始まった「Tyrant」は、今月6日にシーズン3を迎えました。シーズン1では、祖国を捨て米国で小児科医になったバリー・アル=ファイード(アダム・レイナー)が、権力に酔いしれた兄ジャマル(アシュラフ・バローム)との信条の違いを目撃し、血の繋がった兄弟でありながら、文化や環境が形成した人となりを今更変えることはできないと悟りました。
アル=ファイード家の次男バリー(レイナー・左)は、長男ジャマル(バローム・右)の独裁者振りに耐えられず、ジャマルの失脚を企てて失敗、砂漠で放浪しているうちに革命運動の指導者に祭り上げられる。評論家は、レイナーの演技がいまひとつ...派と、振り出しに戻った、何の進展もないストーリーに難あり派に二分されている。WENN.com
シーズン2は、民主化革命運動に参加して、ジャマル失脚を企てたとし、処刑される筈だったバリーの長~くて辛い砂漠の流浪の旅を描きました。救いの手を差し伸べてくれた人達と共に、革命運動に復帰、友達を探していて、革命に巻き込まれた息子サミー(ノア・シルバー)に巡り会います。家族はバラバラで、シーズン2は家族ドラマと言うより、中東の政情を描くドラマでした。昨年6月11日の「USA局の新作『Complications』と『Tyrant』に相通じる父親像」で述べましたが、両作の主人公は目的の為なら手段も影響も顧みない無鉄砲な父親です。
バリーとモリーの長男サミー(シルバー)は、中東では到底生きていけないゲイだが、禁断の木の実を嗅ぎ分けては、トラブルに巻き込まれて行く。父親が家族を顧みず、好き勝手なことをしているから、当然と言えば当然の行動かもしれない。WENN.com
そして、シーズン3では、どうなるのか?バリーは、自分の無責任さを反省したか?を楽しみにしていたのですが....蓋を開けてみて、がっかり。兄ジャマルが危篤状態で、バリーは国民投票が実施できるまで、大統領を代行する羽目になります。しかも、シーズン2ではほとんど話題にも上らなかった、娘エマ(アン・ウィンターズ)を米国から呼び戻し、妻モリー(ジェニファー・フィニガン)、息子サミーの4人で宮殿に入り込み、何の抵抗もなくファースト・ファミリーの座に就きました。
バリーに恨み辛みの過激派リーダーを釈放したばかりに、エマを誘拐され、モリーが身代わりになって娘を助けようとしますが....バリーは何を考えているのでしょう?家族にとっては良い迷惑ですよ!同じ親から生まれた兄弟が、文化や育ちの違いでどう成長するのか?が面白かったシーズン1ですが、回り回って、結局振り出しに戻り、肩透かしを食ったような気がします。
【動画】Tyrant Season 3 "Too Late" Promo (HD)
一体何の為に、家族を犠牲にして謀反を先導したのですか?と、バリーに詰問したくなります。扶養家族も責任もない独り者ではないのですから、家長がこんなに無責任で良いのでしょうか?身勝手な父親に腹が立つと同時に、何か納得できない、もやもやを感じます。
モリー(フィニガン・手前)は献身的な妻だが、こんな政情の不安な国に娘エマ(ウィンターズ・奥)を呼び戻すなど、現実的ではない。男の身勝手な行動に一番振り回されるのは、いつも周囲の女性たち。モリーよ、エマよ、立ち上がれ!(c) Kata Vermes/FX
一方、「SUITS/スーツ」シーズン6は、7月13日から再開されました。パイロットで、ハーヴィー(ガブリエル・マクト)が資格も免許もないと知りつつ、子分に相応しい’生きる知恵’を持った記憶力の鬼才マイク(パトリック・J・アダムズ)を雇った瞬間から、いつバレるのか?がこのドラマの前提です。シーズン3辺りから、マイクの化けの皮を部分的に剥がしてきましたが、シーズン5後半で遂に裁判沙汰になり、今シーズンは刑務所内のマイクとピアソン・スペクター・リット(PSL)法律事務所の再建が並行して描かれます。
別々の世界に生きることになったハーヴィー(マクト)とマイク(アダムズ)の師弟関係はどう変わるのか?先シーズン、パニック発作を起こし、カウンセリングに通い始めたハーヴィーをお守りする羽目になったマイク。ハーヴィーを守るために、ムショ入りしたマイクだけに、どっちが師?逆転した可能性は?を楽しみに観たい。WENN.com
シリーズ更新を確保するための策略だったのか、秘密を小出しにして、知っている人の輪を少しずつ広げ、今シーズンまで必然の結果を延ばし延ばしにしてきました。毎シーズン、’そんなアホな!’と苦笑してしまう安易な結末でお茶を濁して来たため、ハーヴィーに迷惑がかからないようにと、マイクが服役2年を選んだ善行が霞んでしまいました。ここまでの道のりが長過ぎた、紆余曲折が多々あり過ぎたこともあり、それほど衝撃を感じませんでした。
【動画】Suits Season 6 "Get Ready" Promo (HD)
まるで沈没する船から、瞬く間にネズミが逃げ出したように、見事に空っぽの事務所でジェシカ・ピアソン(ジーナ・トレス)、ハーヴィー、ルイス・リット(リック・ホフマン)が首脳会議を開き、今後の方針を練ります。3人に手を貸すのは、レイチェル(メーガン・マークル)、ハーヴィーの秘書に舞い戻ったドナ(サラ・ラファティー)、現在ルイスの秘書グレッチェン(アローマ・ライト)と、IT担当者の計4人です。
一方、刑務所で不安な第一夜を過ごすマイクは、優しく接してくれる同居人(?)フランク(ポール・シュルツ)に気を許して、身の上話をします。しかし、ハーヴィーとフランクは、繋がっていたのです。こうして、刑務所内とPSL法律事務所の二つの世界が巧みに描かれます。それにしても、ハーヴィーに個人的に恨みを抱いている人の多いことには、開いた口が塞がりません。シーズン5でカウンセラーに過去の欠片を語ってはいますが、どんなに阿漕なことをしたのでしょうか?私は、マイクを救い出すことより、ハーヴィーの過去を暴く方に興味を抱いてしまいます。キャラの動機を分析するのが大好きと言うこともありますが、どうも、シーズン6でシリーズが完了しそうな気配なので、チャンスは今しかない!と思うからです。
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政治色濃い2016年夏のプレスツアー
7月27日~8月11日まで、ビバリー・ヒルトンで開催された2016年夏のTCAプレスツアーは、これまでになく政治色濃いツアーとなりました。11月の大統領選を控え、共和党、民主党いずれも候補を指名したばかりだったので、当然ではありますが、二者択一にしても余りにも候補がひどいので、世の終わりムードが漂いました。ったく!お願いしますよ!
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シーズン3が待ちきれない「Younger」
4月15日、ハリウッドにあるロンドン・ホテルで開催された「Younger」は、大入り満員でした。ホテルの宴会場に400人以上が詰め込まれ、7時半開場。
TVLand局から送られてきたイベントへの招待状。全キャストが参加した訳ではないが、アラフォー向けの作品だけに、参加したATAS会員はいつもより若年層だった。
残念ながら、ホテルに到着したのが遅く、最前列は疎か、舞台の正面の席はほとんど埋まっていました。仕方なく、脇の5列目に陣取っていましたが、試写寸前に関係者のために指定されていた30席余りが解放されたので、前に移ることができました。とは言え、脇の3列目から斜めに撮ったので、余り良い写真が撮れませんでした。
左から、モデレーターのローラ・プルダム(ヴァラエティ誌)、ライザ役のサットン・フォスター、クリエイターのダーレン・スター、ケルシー役のヒラリー・ダフ。(c) Meg Mimura
シーズン2の最終回を試写して、このお洒落で楽しいコメディーを観たことがない参加者にアピールしました。過去の経験から、観たことがない、あるいは全く興味のない作品の根回しイベントに参加するのは無意味/時間の無駄と悟りました。我が家の近くのATAS本部の劇場で開催されていた頃は、興味半分で参加していましたが、劇場が完成するまでは、LA全域で開催されるので、去年から厳選して参加する方針に切り替えた次第です。よく「観たことない」と言う人にお目にかかるのですが、余程暇なのか?レセプションで振舞われる美味しいもの目当て?と勘ぐってしまいます。
左からダイアナ役のミリアム・ショア、チャールス役のピーター・ハーマン、マギー役デビー・マザール。キャストの頭上にピンク色のライトが設置されており、場末のバーでどさ回り興行風でがっかり!
(c) Meg Mimura
昨年3月27日「サットン・フォスターのTV復帰作」としてご紹介した「Younger」は、アラフォー、バツイチママのサバ読み再出発の苦労を面白おかしく描くコメディーです。クリエイターは、女の友情を描かせたら右に出る者がいないと言っても過言ではない、「SATC」のダーレン・スターです。「最近、テレビ界は暗〜〜い、悲観的な番組だらけ。是非、逆流してやろう!と思ったんだ」と制作の動機を明かしました。「早く続きが観たい!」「えー、もうシーズン終わりなの?!」と思わせるのは、その明るさ、楽観性にあると納得しました。この手のドラメディーがもっと増えると良いのですが....
ライザの親友マギーを演じるマザールは、「マギーは、何があっても非難せずに、ライザをサポートする真の友達。丸ごと受け入れる女の友情と、心機一転がこのドラマのテーマよ」と言うと、男は入れ替わり立ち替わりするが、「女友達は永遠!が心髄」だと、次々とキャストが付け加えます。
ライザの若いツバメ(ジョシュ)や、ケルシーの婚約者(サッド)を演じる俳優はいずれも不参加。この日参加したキャストの’黒一点’ハーマンは、「男は入れ替わり立ち替わりって、消耗品みたいな発言だなー」と遺憾の意を表しました。とは言うものの、チャールスはライザに気があって、上司と言う立場上、行動に移せない役所ですが、この日観たシーズン2の最終話は、ライザがジョシュとチャールス両方に惹かれる、さー大変!の崖っぷちで終りました。
レセプションで一際目立ったのは、背の高いハーマン。出版社の社長チャールス(ハーマン)もバツイチパパ。幼い娘二人の子守りをライザに頼んだことから、「若いのに(?)、大人の会話ができる」とチャールスは事ある毎に頼るようになる。(c) Meg Mimura
庶民的が売りのフォスターは、いつ見てもファンへのサービス精神に満ち満ちている。ホテル屋上で開催されたレセプションで、サインに応じるフォスター。(c) Meg Mimura
パネルインタビュー後、参加者はホテル屋上で開催されたレセプションに殺到しました。私は、今年1月のTCAプレスツアーでインタビューした、ショアにシーズン2終了の感想を聞きたくて、エレベーター近く、会場の入口で待機していました。
本作で私が最も共感できるダイアナを演じるショアは、どのように演じるべきか結構リサーチをしたと言います。映画「プラダを着た悪魔」のアナ・ウィンター編集長のような上司に仕えたことがあるかどうか、友達に聞いて回った結果がダイアナと言う訳です。実際に体験したことがなければ、嘘か誇張としか思えない’伝説の恐竜’的役所です。「実存することが証明されたから、何の躊躇もなく悪魔を演じられる」と手の内を明かしてくれました。
ダイアナは努力して手に入れた権限や出世欲を隠さない現代女性ですが、アキレス腱が上司チャールスで、シーズン2の終わりでは、ライザにとられた感があります。諦めて欲しくないので、確認したところ、「差し当たり....この先どうなるかは、お楽しみ」と、ショアの目がキラキラ輝いていました。シーズン3が待ち切れません。
「字が下手っぴで、ご免なさい!」と繰り返しながら、サインに応じるショア。この作品に登板するまでは、「出るもの出るものキャンセルされたけど、私の所為じゃないのよ!」と笑う。(c) Meg Mimura
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夏のプレスツアーのハイライト - エイダン・ターナー、レイチェル・ブルーム
7月27日~8月11日まで、ビバリー・ヒルトンで開催された2016年夏のTCAプレスツアーは、これまでになく政治色濃いツアーとなりました。11月の大統領選を控え、共和党、民主党いずれも候補を指名したばかりだったので、当然ではありますが、腹黒ヒラリー?き印トランプ?のいずれに転んでも良いことはない=故に、世の終わりムードが漂い、達観しているカナダ人評論家達は、「カナダに逃げておいでよ」と誘ってくれました。
2016〜17年シーズンの新作については、追々ご紹介して行きますが、長年不作が続いていたドラマ界ですが、今年は「早く続きが観たい!」と思う作品が数本ありました。「敢えて選ぶなら....」の消極的な推薦ではなく、パイロット版が上出来で、大いに感動したからです。但し、あの感動を2話以降維持できるのだろうか?と言う不安は否めません。
今回は、2016年夏のプレスツアーのハイライトをご紹介したいと思います。プレスツアーに参加できるようになった2004年辺りに一度、HBOの贅沢なプールサイドパーティーで、ステーキ+ロブスターが振る舞われたことがあります。あれ以降、プレスツアーにかける予算が削減され、会場も食べ物も嘗てほど豪華なものは、完全に姿を消してしまいました。夜のレセプションは、ディナーではなく、カクテルとおつまみに変身、下手をするとお腹を空かせて我が家に戻ることも多々あります。そんなケチケチムードが続いて来た中、今年はTNTとTBSの両局の革新を目指してトップの座についたケヴィン・ライリー社長兼ターナー・エンタテイメントCCOがサンタモニカにあるレストランを貸し切って、丸ごとロブスターを大盤振舞いしました。
ロブスターの他、トウモロコシ、アーティチョーク、ジャガイモなどの茹で野菜やサラダもたっぷり。溶かしバターは、しょっぱすぎて、テーブルに用意されていたマヨネーズに切り替えてロブスターを満喫した。ご馳走様でした。 (c) Meg Mimura
第二のハイライトは、8月6日に開催されたTCA賞授与式で、去年の注目の新人「トリプル・スレット+アルファ」レイチェル・ブルーム(2015年9月7日の「レイチェル・ブルーム、プリヤンカー・チョープラーの魅力でお薦め!」と、16年4月15日「2016年3月に開催されたエミー賞根回しイベント」を参照)が受賞したことです。
今年は12カテゴリーに6俳優/作品が選ばれ、最も得票数の高かった俳優あるいは作品にTCA賞が贈られました。毎年、私の好きな俳優/作品は候補にも挙がらず、当日の参加者か司会者目当てで参加するか、不参加を決め込んできました。ところが、今年は各カテゴリーに喜んで一票を投じる1名/1作があったので、ちょっと期待していましたが....
結果は御多分に洩れず、12分の1の打率という例年通りの結果となりました。夕方、この式に参加するためだけに、ビバリーヒルトンに車を走らせたのは、コメディー部門の個人賞を受賞するのが、「Crazy Ex-Girlfriend」のブルームだと判明したからです。
到着したばかりのブルームにお祝いの言葉を述べた。エミー賞コメディー部門の主演女優賞に値する才能の持ち主なのに、テレビアカデミー俳優グループは何処に目をつけているのか!?今に始まったことではないが.... (c) Stewart Volland
ゴールデングローブ賞に次いで、TCA賞を受賞したものの、エミー賞は主要部門で完全に締め出されたブルームです。唯一、テレビアカデミーが認めたのは、ブルームとアダム・スラセンジャーが作詞作曲した番組の主題歌だけと言うお粗末さです。この才能が目に入らぬのか!と、諭したくなります。
ご主人同伴で式に参加し、受賞スピーチに時間制限がないからと、番組に貢献してくれた人達を次から次へと列挙、謝意を表した。放送局CWからは、司会に借り出されたハイメ・カミル(「ジェーン・ザ・ヴァージン」のロヘリオ役)の応援団が30人近く参加しており、同局のユニークな作品の1年後輩にあたるブルームの受賞を祝福。 (c) Getty Images
2016年の新作賞は、「ミスター・ロボット」が受賞。左からステファニー・コーネリアッセン、クリエイターのスタン・イスマイル、カーリー・チャイキン、ポーシャ・ダブルデイ、ラミ・マレック、クリスチャン・スレーター。エミー賞最優秀作品賞は、受賞できるか? (c) Stewart Volland
この日、数々のTCA賞受賞を果たしたFX局を代表して、評論家仲間で人気ナンバーワンのFX局&制作会社のジョン・ランドグラフCEOが、奥方同伴で参加しました。奥方は何を隠そうアリー・ウォーカーなのです。ウォーカーは、「プロファイラー」や「サウスランド」などでお馴染みの女優さんで、子育ての合間に最近は「Colony」にも出演中とか。
ランドグラフCEO (左)と奥様のウォーカー。昨年も、ご夫婦で参加したが、早退(?)で、式が終わるまで待っていた私は、悔しい思いをした。 (c) Stewart Volland
そして、胸ときめくハイライトは、「ポルダーク」シーズン2の番宣に駆けつけたエイダン・ターナーに1年半振りに再会できたことです。英国では既に放映済みのシーズン2ですが、既にシーズン3(9話)が確約されており、余裕のバネルインタビューでした。
2015年1月冬のプレスツアーに駆けつけたターナー(左)とエレノア・トムリンソン。旧「ポルダーク」のファンである母親に、「あんな大役が務まるの?」と演技力を疑われたとターナーが告白した。 (c) Rahoul Ghose/PBS
皮ジャン、黒装束、ヒゲ面、ポニーテールで登場したターナーは、一瞬テロリストに見紛う胡散臭さ(?)で、よく空港で拘留されなかったものだと思いました。面と向かうと初対面の時と同様、百万ドルの笑顔で、「久し振りですね〜」と懐かしそうに手を差し伸べてくれました。
最近ヒゲ面がリバイバルしているとは言え、ターナーにはお似合いとは言い難い。折角のルックスが台無しだ!ヒゲ面、ポニーテールを覆面にしているのかも? (c) Rahoul Ghose/PBS
米国では9月25日から再開される「ポルダーク」です。シーズン1終了後、余りにも時間が経ったため、先週からシーズン1のまとめや2の予告編やインタビューを交えて、番宣スペシャルをかけています。10~13話構成のシリーズは、このような対策を取らない限り毎シーズン視聴者が減少して行くことを踏まえた上での、賢い作戦です。他局も右に倣えで、「お復習い編」を流して欲しいものです。
シーズン2のロス・ポルダークの番宣用写真。この凛々しさが全世界の女性を虜にしている。 Courtesy of Mammoth Screen Ltd.
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バブル弾けず2016~17年シーズンに突入。新作の傾向は?
昨夏のプレスツアーで、FX局のジョン・ランドグラフCEOは、同局のリサーチを基に、「脚本のあるドラマ、コメディー、限定シリーズの米国内での放送総数は、420本でピークに達し、バブルが弾けたと診ている」と発表しました。何しろテレビ業界の現実や内情を包み隠さず提示する我らがランドグラフCEOの予想なので、この発言以降、視聴者が付いて行けないほどの供給過剰状態「ピークTV」「黄金時代」に漸く歯止めが掛かるに違いないと信じていました。
しかし、去る8月9日のFX局プレゼン日の初っ端で、ランドグラフCEOは「2015、あるいは16年にビークに達し、本数は減少するだろうと発表しましたが、予想が外れました。バブルは18~19年まで、膨らみ続けるような勢いです。」と非を認めました。2015年末の時点で、米国内で放送された大人向け(=子供番組は含まない)の脚本のある作品(ドラマ、コメディー、限定シリーズ)総数は419本、16年末には430~50本、17年は500本台に乗る勢いだと言うのです。
Courtesy of FX Networks Research
このバブル現象に最も貢献しているのは、ストリーミングと言う新しい配信形態です。2013年にオリジナル作品4本が初めて登場、毎年着実に増加を続け、2016年7月までにAmazon、Hulu、Netflixから計49本のオリジナル作品が発表されています。最も鼻息の荒いNetflix社に至っては、今年は世界を舞台に60億ドルを編成につぎ込み、HBOに追いつけ追い越せ!を実行しており、TCAプレスツアー初日の7月27日、同社テッド・サランドスCCOが「来年もオリジナル作品への投資は増加する」と発表しました。
Courtesy of FX Networks Research
オリジナル作品の内訳は、上のグラフをご覧頂ければ明らかですが、総計510本に到達することが予想されます。
地上波局(ABC, CBS, CW, Fox, NBC, PBS) 150本
プレミア・ケーブル局(HBO, Showtime, Starz, 他) 50本
ケーブル局(AMC, FX, NBCUケーブル, 他) 180本
ストリーミング(Amazon、Hulu、Netflix、他) 130本
「下手な鉄砲も数打てば当たる!」は今に始まったことではありませんが、今年のエミー賞のノミネーションを見れば、NetflixはHBOに数歩近付いた感があります。但し、高視聴率=エミー・ノミネーションの図式は成り立ちませんから、Netflix社は長期的視点でエミーお墨付きの’質’の高い持ち作品を増やして行く戦略なのでしょう。
さて、約3週間後に2016~17年シーズンに突入するにあたって、新作の傾向を分析してみました。昨年と余り代わり映えはせず、相も変わらずリメイクのオンパレードです。毎年、花火のように夜空を飾っては単発で消え失せるリメイクの数々ですが、語り口や切り口、主人公キャラの人種や性別に21世紀の世相を反映しても、配役が成功の鍵を握っていることが又々証明されました。「うーん、この役者じゃ、観る気がしないよな~」と唸った作品が圧倒的に多い年です。
その最たる例が、楽しみにしていた「冒険野郎マクガイバー」(1985~92年)のリメイクです。主人公マクガイバーの能力を三等分したのは良しとしても、リチャード・ディーン・アンダーソンに代わるのがルーカス・ティルですか?!視聴者の年齢層が高いことが最大の悩みであるCBSが、若者に受けようと躍起になっているのは解りますが....ティルのマクガイバーより、’負け組’ブライアン(ジェイク・マクドーマン)が活躍した「リミットレス」を復活して頂いた方が良いと思うのですが、いかがなもんでしょうか?
MacGyver (2016) NEW Official Trailer (HD) - CBS
CBSの配役ミスは、斬新奇抜なアイデアのドラマ「Pure Genius」でも顕著です。ダーモット・マローニーを、女医にするか、黒人/ラテン/アジア系とすげ替えれば、人種差別問題は少々緩和されませんか?
PURE GENIUS - Official Trailer - CBS New Shows 2016
作品自体はかなり古いものの、「仕事が終わって、故郷でのんびりしていたところ、お声がかかった」と言うクレイン・クロフォードが登板して、「続きが観たい!」度がアップしたのが、Fox「リーサル・ウェボン」のテレビシリーズ化です。
Official Trailer | LETHAL WEAPON
人種差別撤廃は第68回エミー賞が挽回した感がありますが、アカデミー賞よりは’マシ’の程度で、プレスツアーでは今年も最大の争点でした。
1)8月1日にCTAM (Cable & Telecommunications Association for Marketing) が企画開催した「Diversity Panel」
パネル参加者はEl Rey Network, Starz, TV One, WGN America局のプロデューサー、演出家、タレントなど計8人でしたが、ほとんどが黒人とラテン系で、アジア系はゼロの悲惨をきわめました。
パネルの7割がたは黒人で、パネリストが関与している「Survivors Remorse」や「Underground」は’黒人の、黒人による、黒人のためのドラマ’だ。昨年のエミー賞同様、どこが人種差別撤廃なの?と食ってかかりたくなる。 (c) REX/Shutterstock
2)8月4日、「Black-ish」(ABC)のパネルインタビュー
黒人視聴者が番組視聴者数に占める割合を尋ねられ、怒り心頭に発したクリエイター/プロデューサーのケニア・バリス。番組開始時に、ビバリーヒルズに居を構える裕福な黒人家族のコメディーなので、「黒人にどう受け止められるかが心配」と発言した張本人です。人種差別を語るのはもう沢山!は解りますが、改革運動の指導者を買って出たのは、どこのどなたでしたっけ?ぷりぷり怒って拗ねまくった結果、セッション終了直前に「23%」と漏らしたのは、何だったのでしょうか?
極め付けは、8月6日、TCA最優秀コメディー賞を受賞したにも関わらず、バリス以下キャスト全員がボイコット。白人のプロデューサーが受賞スピーチをしたが、私は番組自体をボイコットすることに決めた。 (c) WENN.com
3)8月10日のCBS幹部の質疑応答セッションでは、新作の主人公が全て白人男性だと詰問されましたが、言い訳に事欠いて「私自身、ゲイですから....」。はー?
昔から作品内の人種の多様性には気を使っているCBSですが、主人公キャラは白人男性のまま、助演キャラに女性、異人種、LGBTQなどを配役する旧式な方法で対処してきました。この日も、今シーズン新たに追加したキャラの人種、性別、LGBTQの一覧表が提示されました。黒人家族(「Black-ish」)、中国系家族(「Fresh Off the Boat」)、韓国系家族(「Dr. Ken」)と人種グルーブ別にコメディーを展開するABCとは正反対です。
数々のハプニングがありましたが、最も差別されているアジア人の一員として、白けっぱなしのプレスツアーでした。
ここ数年、中国やインド人俳優が多数配役された結果、「❍❍色濃い」と表現してきましたが、今秋は「黒人の、黒人による、黒人のためのテレビ」としか言いようがありません。それでも、「まだまだ差別は撤廃されず、苦労は続く」とお涙頂戴の発言を何回聞いたでしょう。白人以外を十把一絡げにしたグループのリーダー格的黒人の皆々様、それは「蜘蛛の糸」ではありませんか?と指摘したくなりました。異人種が1本のドラマの中に共存する私の理想は、所詮、絵に描いた餅のようです。
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「This is Us」トレーラーに感銘を受けた人達を繋ぎ止めておけるか?
毎年5月、NYで開催されるスポンサー向けの新番組発表会がUpfrontと呼ばれるイベントです。プレスツアーとは異なり、キャストあるいは著名なプロデューサーが舞台に立ち、秋の新番組を手短に紹介するプレゼン+ショーで、CF放送時間を買ってもらうことが目的なので、局全体のプロモーションが狙いです。
今年のUpfrontで話題になったのは、「This is Us」のたった2分のトレーラーでした。美しいイメージを、勇気、寛容、希望、喜び、家族、愛などの心に響く言葉で繋ぎ合わせて人生模様を描き、涙と感動を誘いました。Upfront後、トレーラーは何と9100万回視聴され、NBCマーケティング部は異例の快挙を成し遂げました。
Upfront直後、NBCからクリエイターのダン・フォーゲルマンにインタビューしませんか?とお誘いが舞い込みました。飛びつきたいのは山々でしたが、パイロットを観るまでは何をどう質問すれば良いか分からないので、プレスツアーまで待ちますと丁重にお断りしました。想像以上のトレーラーへの反響を無駄にしてなるものか!と思う局のフライング行為です。気持ちは解るのですが....
夏のプレスツアー間際、待ちに待ったパイロットが郵送されて来ました。トレーラーはほんの序の口で、十年に一度登場すれば「ラッキー!」と言えるカテゴリーに入る、久々の涙と感動の人間ドラマです。止め処なく溢れる涙で心が洗われ、人間ってまんざら捨てたものではないな~と感動しました。「ギルモア・ガールズ」時代から知っているマイロ・ヴィンテミリアと、「リベンジ」以降注目しているジャスティン・ハートリーが配役されているのも相まって、8月2日のパネルインタビューを心待ちにしていました。
開口一番「パイロットの結末を、放送日まで内密にお願いします」と、フォーゲルマンが懇願しました。誕生日が同じ数人のキャラが、浮世の荒波を乗り越えて、たくましく生きて行く姿を描くパイロットには、漏らしてしまうと元も子もなくなる秘密が隠されています。パイロットを観て、プレスツアーに臨んだ評論家達に、ネタバレを回避するのに協力して欲しいと述べたフォーゲルマンの意図は「一般視聴者に皆さんと同じ体験をしてもらいたいので」でした。
映画「ラストベガス」や「ラブ・アゲイン」で名を馳せた脚本家フォーゲルマン。「世知辛い世の中を、少しでも明るくしたい」と劇場用映画として書いた「This is Us」だが、「LOST」のドラメディー版だと説明してテレビシリーズ化に成功した。「LOST」の完に未だに憤慨している私には、決して好ましい表現ではないが、私の例えはパイロット放送後にしか明かせない。 WENN.com
そして、9月16日に公開した「This is Us」評です。今のところ、ネタバレは発覚していませんが、それを言ってはヤバイ!?と思う記事もチラホラ....守秘義務はどうなってしまったのでしょう?
ヴィンテミリアは、2015年1月に「見えない訪問者~ザ・ウィスパーズ」のビデオインタビューして以来ですから、1年半振りでした。見る度に、「えっ、これマイロ???」と目を疑う変身(?)振りで、今回は最近のトレンド’髭’で舞台に登場しました。そろそろ、40歳に手が届くと明かしたヴィンテミリアとの初対面は、かれこれ15年ほど前、「ギルモア」に不良少年ジェス役で登場した年でした。「仕事が面白いと思う歳になって当たった役が、21年の役者稼業の中で最も単純な役なんだ」とヴィンテミリアは、今回演じるジャックを過去の複雑な役どころと比較して指摘しました。
Netflixの「ギルモア」にも登板が決まったヴィンテミリアだが、小柄な所為か40男には見えない。「HEROES/ヒーローズ」のピーター、「ザ・ウィスパーズ」のショーンなど、「This is Us」のジャックより遥かに根暗な役を演じてきたものの、この役が地で演じられるということは、大人になった証拠だ。 WENN.com
「ザ・ウィスパーズ」の予想外の暗い展開にがっかりしたので、ヴィンテミリアが「ダン(クリエイター)の頭の中を覗かせてもらったので、ジャックの人生行路を熟知した上で演技している」と披露したので、一安心しました。セッション後、「役者には何も教えてくれず、気が付いたらとんでもなく暗い作品になってしまって、残念だった」と「ザ・ウィスパーズ」についてコメント。それでも諦めなかったので、「最後まで観てくれてありがとう」と感謝されてしまいました。血みどろではなかったのが、唯一の救いです。
パイロットの脚本を読んだ友人から「ケヴィンって、君のことだよね。ダン・フォーゲルマンを知ってるんだ」と言われて、脚本を読み始めたハートリーです。読み始めたら止められなくなり、「どの役でも良いから出たい!と思いました」と登板の経緯を語りましたが、実はフォーゲルマンとはオーディションが初対面だった!そうです。
「ヤング・スーパーマン」のグリーンアロー(オリバー・クィーン)役が代表作だが、最近「リベンジ」や「ミストレス」でも好演した。不思議な巡り合わせで、登板したケヴィン役がハートリーのはまり役になるのではないか? WENN.com
パイロットが’十年に一本出たらラッキー’の箱に入れた見事な出来栄えなので、二話以降この感動を維持できるのだろうか?が、最も気がかりです。8月2日の時点では、第二話を撮影し始めたばかりでしたが、ヴィンテミリアもハートリーも、「どの脚本も良く書けているよ」と太鼓判を押してくれました。役者や制作に関わっている人全員がすっかり惚れ込んだドラメディーは、パイロットで視聴率を獲得できることは間違いありません。フォーゲルマンは、「期待を裏切らないよう、頑張ります」と確約してくれましたが、短気な現代人のことです。何話繋ぎ止めておけるのでしょうか?
久々に彗星の如く登場した温かいドラメディーは、世知辛い世の中で生き残れるのでしょうか?これまで、何十本となく私好みのドラマを泣く泣く葬った辛い体験があるだけに、無意識に本作への期待度を下げているのでしょうか?取り越し苦労に終わることを祈りつつ....
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エイダン・ターナー、ポルダークを語る
英国では既に「ポルダーク2」の中盤あたりですが、米国では13ヶ月振り、9月25日から再開されました。シーズン1がロス・ポルダーク(エイダン・ターナー)の逮捕と言う崖っ淵で終わり、シーズン2の第一話は判決がおりるまでの過程を2時間で描きます。
絞首刑に処せられるかどうかの裁判。ロス(ターナー・左)は、飽くまでも無罪を主張し、公平な社会ではないことを指摘するが、弁護人は信条を貫くより、家族の身になって折れることを勧める。判決は? Courtesy of Mammoth Screen Ltd.
このコーナーでは、2015年6月22日に「凛々しいエイダン・ターナーにうっとり!真の英雄『Poldark』放送開始」やエイダン・ターナーの変身振りを16年9月6日の「夏のプレスツアーのハイライトーエイダン・ターナー、レイチェル・ブルーム」でご報告しました。待ちに待ったシーズン2再開にあたり、今回は7月28日番宣に駆けつけたターナーと交わした英雄論を披露します。
18世紀グレートブリテン王国コーンウォールの名家ポルダーク一族の長編冒険談「ポルダーク」は、米国ではPBS(公共放送) MASTERPIECEシリーズ「ダウントン・アビー」の後釜として登場しました。一族の中で主役格はポルダーク分家の長男ロス(ターナー)で、アメリカ独立戦争で戦い、負傷して帰郷します。心身ともに傷ついたロスを待ち受けていたのは、父親の死、荒れ果てた分家の土地、廃坑、将来を誓い合ったエリザベス(ハイダ・リード)と本家の跡取りフランシス(カイル・ソラー)の婚約でした。お先真っ暗!?絶望の淵に立ったロスが、準貴族階級に後ろ指をさされながらも、型破りな選択と決断でどん底から立ち上がり分家を立て直す過程が描かれます。
米国に出征する前に、ロス(ターナー)とエリザベス(リード)は、将来を誓い合うが、3年後帰郷した時には、エリザベスは本家の跡取りフランシス(ソラー)と婚約していた。未だにエリザベスを見るロスの目は、「逃がした魚は大きい!」を物語る。初恋の相手だし、本家に嫁いだエリザベスと、事ある毎に顔を合わせないといけないのも忘れられない理由である。 Courtesy of ©Robert Vigiasky/Mammoth Screen for MASTERPIECE
第一話で助けた家出少女デメルザ(エレノア・トムリンソン)は、ボロ家で飯炊きからポルダーク夫人に昇格、病に倒れた本家一家を看病して帰宅したものの、二人が溺愛していた幼い娘はデメルザから感染し、あっけなく死んでしまいます。ロスの帰郷から、結婚、長女を失うまでが目まぐるしく描かれ、もう少し時間をかけて欲しかったな~と思います。喪失の種類こそ違え、あそこまで次々と畳み掛けられると、癒しの間がなく、息を詰めたままシーズン1を観たような疲労感を覚えました。古い小説を基にしているだけに、もう少し緩やかに時が流れるものと期待していましたが、我慢のない現代人のペースに合わせるためか、3~4倍速で帰郷から逮捕に至りました。長編小説12巻の1~2巻を8話で綴るのも、この異例の3~4倍速に寄与しているのでしょう。このペースで行くと、6シーズンは継続する計算になります。
家出少女デメルザ(トムリンソン・左)は、ロス(ターナー)に拾われて、ボロ家に戻ってくる。父から貰い受けた使用人は、飯炊きは疎か一番きつい野良仕事をデメルザに押し付けるが、文句も言わず働く。ある日、突然ロスの妻に昇格して、周囲の嫉妬を買うことに。 Courtesy of ITV pic (ITV Global Entertainment Ltd.)
アンチヒーローの横行に飽き飽きしている私にとって、「ポルダーク」は何度観ても飽きない壮大なドラマです。ポルダークは常に正しいことをしようと努力し、過ちから学んで成長して行く私の英雄なのです。ところが、シーズン1終了後、オンラインでターナーのインタビューを片っ端から観たところ、「ポルダークは英雄ではない!」と断言しています。はー???開いた口が塞がりません。私好みの英雄を十二分に映像化し、最近とみに欠乏している勇気と希望を与えてくれたのに、イメージをぶち壊すこの発言は何なのでしょう?以来、次回ターナーにお目もじできたら、絶対に聞こう!納得が行くまで説明してもらうぞ!と、待ち構えていました。
’弱い者イジメ’は、人間の風上に置けぬと戦争体験で学び、故郷コーンウォールで平等な社会を築こうと心身を傾ける馬上のポルダーク。乗馬は得意と断言したものの、海辺の草原を馬で駆け抜けるシーンで撮影1日目が始まると聞きつけ、「ヤバイ!と思って、特訓を受けましたよ!」とは、ターナーの裏話。 Courtesy of ITV pic (ITV Global Entertainment Ltd.)
今夏のパネルインタビューには、トムリンソン、ターナー、リードの3人が登場し、質問が2015年のインタビューより分散され、シーズン2の種明かしは当然無く、特に面白い裏話も飛び出しませんでした。昨今のアンチヒーロー横行風潮に逆らうポルダークの人となりは?と尋ねられ、「とんでもない欠陥人間です」と答えたターナー。非の打ち所が無い人間なんて存在する訳がありませんから、欠陥は許せるんだけど....と密かに思っていると、「今で言う『仕切りたがり屋』ですね。何をするにもお山の大将でないと気が済まないし、人に任せられない性格って言うか....何でも自分で差配したがるタイプ。追い詰めると、冷淡、猪突猛進の自己チューで根性の悪い男に変身するしね」と畳み掛けました。えーっ!!!それって、誰のこと?私の英雄を引きずりおろすのは止めてください。
番宣に駆けつけた(左から)トムリンソン、ターナー、リード。トムリンソンは当初、エリザベス役でオーディションを受けたが、翌日家出少女デメルザの扮装で挑戦して登板が決まった。ターナーはアイルランド出身、リードはアイスランドからロンドンに引っ越して9年、俳優修行中で登板。 (c) Rahoul Ghose/PBS
パネル後、場所を変えて午後の紅茶パーティーが開催されました。レッドカーペットを歩き終えた直後のターナーを捕まえて聞いてみました。シーズン2を演じてポルダークを見る目が一変したらしく、「失敗ばかりの男。やってしまってから気が付くんだけどね」と’欠陥人間’を語ります。若気の無分別からやらかす失敗は、無茶ではあっても、悪意から生まれた過ちではありません。完璧な人間しか英雄になれないとターナーは信じているのでしょうか?ポルダークは、阿漕を絵に描いたようなフランク・アンダーウッド(「ハウス・オブ・カード」)とは訳が違います。
押し問答の末、ターナーは止めを刺すように’謎だらけの不可解な男’、’無法者’、’裏切り者’、’反逆児’等の言葉でポルダークの影の部分を浮き彫りにし始めました。ぎょっ!最早、英雄の定義の差どころの話ではありません。米国人の英雄崇拝が度を超えているため、英雄のレッテルを貼ることに拒絶反応を示すターナーの私感が口を付いて出たのでしょうか?謙遜な西欧人として「英雄役を演じています」と宣言できないとも考えられます。ポルダークを英雄と称しても、ターナーの自画自賛ではないので、何の支障もないと思うのですが....あるいは、今後永遠に英雄役しか回って来なかったら困るな~の不安から英雄と呼びたくないとも読み取れます。思い起こせば、私が出席したいずれのパネルインタビューでも、ターナーの口から英雄と言う言葉は聞きませんでした。
モニターを見て演技を確認するターナー。「ビーイング・ヒューマン」のミッチェル役同様、感情表現に幅があり、激情のみでなく、繊細さも十二分に表現できる役者だ。 Courtesy of ITV pic (ITV Global Entertainment Ltd.)
映画とは異なり、テレビシリーズは有機体です。状況に応じて変化を遂げて行くのが常識で、制作関係者しか知らない裏事情が多々あって、私など知り得ない無数の軌道修正が日々加えられているに違いありません。私は、シーズン2の第二話までしか観ていない上、原作を手にしたことさえありません。ポルダークを知り尽くしているターナーの発言には、それなりの理由や背景があるに違いありません。英雄か?否か?の判断は、もう少し先送りした方が良いのかなぁと思いつつ、インタビューを締めくくりました。
さて、シーズン2は、妻デメルザと本家に嫁いだエリザベスの間で揺れ動くロス・ポルダークの私生活と、家柄や権力を誇る準貴族階級対、財力で権力と家柄を手に入れようと躍起になる成金階級の激戦が描かれます。ロスは生まれ持った家柄やそれに付随する’力’には無頓着で、貧民を助けたり、地域を潤す手助けができないのなら、階級など何の役にも立たないと、炭鉱に資本投資してくれる人を探します。一方、幼い頃からロス・ポルダークになりたい!と憧れてきたジョージ・ウォーレッガン(ジャック・ファーシング)は、鍛冶屋から叩き上げた成金三代目で、当時台頭し始めた銀行家と言う名の商人です。ロスに依存して生きる家族、鉱夫や使用人の輪が広がった今、独り身の時に通用した善悪の判断ができなくなりました。信念を貫けば、波紋は大きく、遠くまで広がります。世渡り術を学ぶしか生きる道はないのでしょうか?ジレンマ続きのシーズン2は、益々面白くなりそうです。
ターナーは、18世紀英国の乗馬用の丈の長いコートと、実用的な工夫を凝らした帽子が大いにお気に入り。シーズン2の番宣ポスターにしたい美しい構図だ。 Courtesy of ©Robert Vigiasky/Mammoth Screen for MASTERPIECE
英文の「ポルダーク」評を発表した後に、BBCのシーズン2の番宣トレーラーを観ました。英国ではロス、妻デメルザ、’元カノ’エリザベスの三角関係にスポットライトを当て、ロスが紳士ではないかも?を前面に押し出しています。シーズン2は、「英雄色を好む」的スキャンダラス路線を狙っているように見受けます。道理で、’英雄’のレッテルを引っぺがしたい訳だ~~と勝手に謎解きして納得している私です。
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SFは苦手でも「Timeless」は面白い!
ご存知のように、私はSFものは苦手です。と言いつつも、キャラに魅力があると、ついつい引き込まれて観てしまうのも周知の事実です。好例が、「12モンキーズ」や「コンティニアム」で、内容はどんどん複雑化して行きましたが、アマンダ・シュルとレイチェル・ニコルズに魅せられて、不可解な部分は無視して観ています。 又、贔屓にしている役者が配役されると、SFものでも観ない訳に行かず、観ている内に、他にも面白いキャラに気が付き、病み付きになることもあります。「テラノバ」が正にそれで、シーズン2で打ち切られたことに大いに腹が立ちました。「やっと、面白くなって来たのに、それは酷だよ!」とFoxに抗議したくなりました。ジェイソン・オマラは、「延々と議論された挙句の果て、時期尚早の打切決定だったと思います」と悔しそうでした。(2012年8月15日の夏のプレスツアーレポートでご報告)
視聴者を引き込むチャンスはたった一度しかありませんから、莫大な予算をつぎ込んで、客寄せに一大スペクタクルを繰り広げるパイロットが鍵でしょう。但し、ドラマ制作数がまだ上昇を続けるテレビ界は、正に芋の子を洗うような混雑ぶりですから、パイロットのみではヒットするかどうかは疎か、ドラマの色調を読み取ることさえ日に日に困難になっていることも確かです。
NBCが今秋鳴り物入りで発表するドラマは「This is Us」と「Timeless」の2本です。「This is Us」は、9月20日「トレーラーに感銘を受けた人達を繋ぎ止めておけるか?」と不安と期待の入り混じった記事でご紹介しました。恐々観た第二話(9月27日放送)は、パイロットで感情移入したキャラ達の心痛がじんじんと伝わってきて、涙、涙の1時間でした。マイロ・ヴィンテミリア、ジャスティン・ハートリー、更には番組クリエイター自身の「期待を裏切らないよう頑張ります」の約束は嘘ではありませんでした。既に、シーズン1は18話制作と発表がありました。
一方、10月3日放送開始のSFドラマ「Timeless」はと言うと....ドラマの色調を更に読み取ってもらうためか、「This is Us」ほど話題性に欠けるからか、9月28日に、地元の評論家をソニー撮影所に集め、第二話の試写会が開催されました。ヒンデンブルク号爆発事故がパイロットの舞台なら、第二話はリンカーン暗殺事件にチームがタイムトラベルする逸話でした。アラモ砦の戦いや第二次世界大戦下のドイツ、ラット・パック(シナトラ軍団)が活躍した往年のラスベガス、ウォーターゲート事件、月面着陸など、全てカナダにセットを建設して撮影が進行中です。
Timeless
パイロットは、CW局の新作「Frequency」(これも一種のタイムトラベル)を観た後に送られてきたので、またタイムトラベル?と斜に構えて観ました。1937年5月、米国東海岸で発生するヒンデンブルク号事故の前日、謎の工作員フリン(ゴラン・ヴィシュニック)を追って、ルーシー(アビゲイル・スペンサー)、ワイアット(マット・ランター)、ルーファス(マルコム・バレット)が到着します。ルーシーは行く先々で何が起きたか、当時の服装や慣習を熟知している歴史学教授。ワイアットは、元デルタフォース隊員で、ルーファスは、タイムトラベルに詳しいエンジニアです。タイムマシーンの存在など知る由もないルーシーとワイアットは、国土安全保障省に招集され、何が何だか分からないまま、1937年5月5日のニュージャージー州レイクハーストに飛ばされます。フリンの目的は、歴史を変えることによって、米国を崩壊に導くことのようですが....
「SUITS/スーツ」のスコッティ役がまだ記憶に新しいが、今シーズンはNBC新番組「Timeless」と「Rectify」最終シーズンでも活躍するスペンサー。7月31日にサンダンスTV局の「Rectify」のパネルインタビューで、聡明さを披露した。「Timeless」のショーン・ライアン(クリエイターの一人)も絶賛する、今乗りに乗っている女優。 WENN.com
面白いことに、「This is Us」と同様、パイロットのエンディングに本作の味噌が隠されています。私はそれに惹かれて、続きを観なければ!と思いました。タイムトラベルでフリンを逮捕することはできなかったものの、帰宅したルーシーが目にしたのは、朝家を出た時から一変した家族構成でした。思わぬところで歴史が書き換えられた結果、ルーシーの家族に異変が生じます。果たして、元の現実に戻ることはできるのでしょうか?
ワイアット(ランター)は、腕力を買われてリクルートされた元特殊部隊の隊員。ワイアットの人生で最大の悲劇は妻を亡くしたことで、歴史を書き換えて妻を助けたいと、チャンスを狙っている。歴史を忠実に維持しようとするルーシーと、些細なことなら書き換えても差し障りないと信じるワイアットとの対立は絶えない。 WENN.com
クリエイターの一人ライアンは、「ユニット」「Chicago Code」「Last Resort」などの番宣で何度もお目にかかっていますが、アクションものが得意な放送作家です。但し、テレビアカデミーのイベントでは、普段語れないドラマへの情熱を熱く語り、傾倒振りに敬服していました。8月2日のパネルインタビューでは、「歴史上の異変の中でキャラがどう反応するかではなく、一見何も変化していないのに、もっとも私的レベルで異変が生じる方が、ドラマとしてはずっと面白い」と語りました。ルーシーの家族に異変を提案したのはライアンだったのです。さ、す、が。
9月28日の試写後に行われたパネルインタビューでも、ライアンは「タイムトラベルは人間ドラマを繰り広げるための背景に過ぎない」と語り、SFは大いに苦手な私がルーシーに磁石のように引きつけられた謎が解けた!と言うものです。
ルーファス(バレット)は、チームの中で唯一タイムマシーン構築に関わったエンジニアだが、シカゴ西部(スラム街)出身の叩き上げ。「目立たないように、息を殺して生きてきたのに、冒険に引きずり込まれた上、人種差別を身を以て体験するキャラ」とルーファスを説明した。 WENN.com
当然ながらチームの構成は意図的で、白人男性、女性キャラ、黒人キャラの3人が主人公です。女性も黒人も2016年現在、まだ差別されていますから、過去に戻れば戻るほど、度合いは増す筈です。ルーファス曰く「どの時代に遡っても、黒人にとって生き易い時なんてない」。オバマ大統領が当選した日は、希望に満ち満ちていたのですが....
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ロマコメ「No Tomorrow」が提唱する楽しむっきゃない!精神
6月初旬、CWから「Frequency」と「No Tomorrow」のパイロットが舞い込みました。今秋シリーズとして提案された作品リストを2月頃に目にした時に、「Frequency」は一番私の興味を引いた作品でした。早速「Frequency」を観て、大いに感激しましたが、「No Tomorrow」はタイトルを見る限り、例によって例の如く、宇宙人に占拠され荒れ果てた地球で繰り広げられるサバイバル劇か、細菌戦争で人類が滅亡した的、暗~~いドラマに違いないと想像。但し、この時点では、他に観るパイロットもなかったので、早目に処理しておこうと言う義務感から、試してみることにしました。
数年前にも、英国の地球最後の日をテーマにしたコメディーがあったような....全く、笑えないのでパイロットのみで放棄した記憶があります。同様の作品かと思いきや、人類滅亡に向かって毎日精一杯生きよう!的プラス思考のカラフルなロマコメと判明しました。何よりも主人公キャラ二人に魅力があって、思わず続きが観たい!と思いました。早速、CWの広報部長に激励のメールを送ったほどです。そして、待ちに待ったパネルインタビューは、今夏のTCAプレスツアーの最終日、8月11日に開催されました。
No Tomorrow
ブラジルのテレビ番組「Como Aproveitar o Fim do Mundo」(=世の終わりを如何に楽しむか)を基に、コリーン・バーケンホフが「No Tomorrow」を書き下ろしました。バーケンホフは、「とにかく最近、夢も希望もない暗いドラマばかりじゃない?暗~い世相に逆行して、どうせ明日がないなら、楽しむっきゃない!と言うロマコメにしたの」と制作の動機を語りました。
イーヴィ(トリ・アンダーソン)は、日々の生活に窮々とするオンラインショップ購買部マネージャー。四角四面で、上司にも、恋愛にも恵まれませんが、平穏無事な日々を送っているアラサー女性です。ある日、朝市で素敵な青年ゼイヴィア(ジョシュア・サス)と出会ったことから、イーヴィの人生は好転(?)します。問題は....ゼイヴィアは、8ヶ月12日後に遊星が地球に衝突し、人類が滅亡すると信じて止まないことです。世界の末日が決まっているならと、仕事を辞め、Apocalyst=死ぬまでにやりたい事の一覧表を手に、心置きなく死ぬ準備をしてきました。世界の末日は8ヶ月12日後に来るのでしょうか?科学的に証明できると息巻いていますが、ゼイヴィアの被害妄想でしょうか?
イーヴィを好演するアンダーソン(27歳)は、現ロケ地の近くの農場で育ったカナダ人。「明日が来るっていう保証は何もないから、思い立ったが吉日よ。撮影が終わったら、バリ島でサーフィン、鳥獣サンクチュアリでボランティア活動しようと決めたの!」と発表。CWの視聴者ターゲットが他人事だと思わず、右に倣えしてくれると良いのだが.... WENN.com
平穏無事に飽き飽きしていたイーヴィは、き印?と疑いつつも、世間体を気にして躊躇していた冒険に敢えて挑戦する勇気を与えてくれるゼイヴィアにぐんぐん惹かれていきます。イーヴィなりの「我が人生に一片の悔いなし」リストを作り、実行し始めますが....イーヴィの生き様は、職場や家族にも連鎖反応をもたらし始めます。
パイロットはLAで撮影されましたが、抜けるように青い空が「No Tomorrow」のタイトルにふさわしくないと判断され、シアトルに設定されました。当然のことながら、撮影は椰子の木を避けるのが至難の技のLAから、バンクーバーに移転、パイロットのあちこちに現れた椰子の木は、上手に編集されています。
チャーミングなゼイヴィア役を射止めたのは、英国人俳優サスです。「Galavant」という中世の騎士を描いたミュージカル・コメディーに出演していた時は、さほど魅力は感じませんでしたが、サスでなければ続きが観たい!と思わなかったに違いありません。今回の役所について、「父は若くして亡くなったので、僕もいつ召されるかわかりません。ですから、今日しかないと思って楽しむぞ!精神で生きてきました。脚本を読んだ時に、これなら地で行ける!!と思いました。ユニークなロマコメを作らせてくれるCWには、とても感謝しています。マイナス思考もどん底の今、『今日を掴め』がテーマの明るいロマコメがあっても良いのではないでしょうか?」と熱く語りました。御尤も。
恋は盲目と言うから、頭がおかしい?と思いつつも、女がついていくのは当然のチャーミングなゼイヴィアを好演するを英国人サス。「『地』で行ける!」と言う割には、控え目で礼儀正しい好青年だった。 WENN.com
英文評
手前味噌を並べるようで恐縮ですが、私は本作を観るまで、「我が人生に一片の悔いなし」を実行してきたと自負していました。離婚と言う名の我が人生最大の危機以降、不死鳥として何度も何度も生まれ変わって生きてきたからです。でも、喉元過ぎれば熱さを忘れるのが人間で、微笑ましい「No Tomorrow」を観て、早速私なりのApocalystを作り始めました。
おかげで最近、過去の人が多々夢に出て来るようになりました。無意識のうちに、過去を清算して、心置きなく死ぬ準備をしているのでしょう。死ぬまでに会いたいスターのリストには、まだ10人ほど残っていますが、ほとんどの夢は果たしたので、後は....長い間、ハワイに行っていません。地上の楽園マウイ島にもう一度行くのが、今のところ最優先です。何度も誘ったのに断り続ける最愛の妹と行けたら、本望です。
「我が人生に一片の悔いなし」を思い出させてくれた、ユニークなロマコメ。「テレビばかり観ているの!?」とよくバカにされますが、こんなご利益だってあるんだぞ!と声を大にして反論したいと思います。テレビから学ぶことは、まだまだ山ほどあります。
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「Frequency」は同名映画のテレビ化
2005年公開の映画「Frequency」(邦題「オーロラの彼方へ」)を、主人公を女性に代えてテレビシリーズ化したのが、CWの今秋の新作「Frequency」です。パイロットが制作される初春に、3行ほどのあらすじを読んだ時にきらりと光る何かを感じ、以降実際にどのようなパイロットが出来上がってくるのか、興味津々で待つこと4ヶ月。CWから舞い込んだパイロットは、期待を裏切らない出来で、放送開始が待ち遠しい今秋の新作のトップの座を占めてきました。
Frequency
NYPD殺人課刑事レイミー・サリバン(ペイトン・リスト)は、20年前父フランク(ライリー・スミス)が殉職して以来、母ジュリア(デヴィン・ケリー)とひっそり暮らしてきました。ある日、ガレージで埃を被っていた父の形見アマチュア無線機に落雷してスイッチが入り、聞き慣れない男の声がコールサインW2QYVを送ってきます。レイミーが久しぶりに向かった無線機にもW2QYVが刻まれており、交信を続けるうちに、1996年のフランクと2016年のレイミーの世界が同時進行していることが判明します。交信が始まった2日後は、フランクの運命の日。殉職に至るまでの経緯を熟知しているレイミーは、フランクに詳細を伝え、無駄な死を阻止することに成功します。しかし、フランクを救ったことによって、何かが微妙に変わり、今度は母ジュリアが看護婦ばかりを狙う「ナイチンゲール連続殺人鬼」の犠牲者になる宿命が待ち受けています。母と過ごした過去20年、父が生きていた過去10年余りの記憶が、レイミーの頭に鮮明に残っていると言うのに....サリバン父娘はジュリアの宿命を書き変えるべく、無線機を介して殺人鬼の捜査に乗り出します。ジュリアの運命の日まで残り数ヶ月。20年を隔てた「声のタイムトラベル」で結ばれた父娘が、時間との闘いに挑みます。タイムパラドックスがテーマのSFファンタジー・サスペンス・ドラマです。
NYPD殺人課刑事レイミー・サリバンを演じるリスト。「マッドメン」の秘書から重役夫人にのし上がったジェーン・スターリング役が、まだまだ印象に残っているが、本作ではタフな刑事役。逞しさに、繊細さを微妙に加味して、好演している。 The CW
以前にも指摘しましたが、昨今のリメイクは、数々の’ひねり’を盛り込まなければ生存し得ません。主人公の性別や人種を変えるのは、最も基本的な’ひねり’です。映画「オーロラの彼方へ」では、主人公は男性で、消防士の父フランクとの父子の絆が描かれましたが、テレビ版では、主人公は女性です。また、囮捜査で潜入していたギャング団に身元がバレて、消されてしまい、上司に汚職の罪を着せられて殉職する刑事フランクとの父娘関係が主軸となっています。更に、映画ではフランクは殉職と肺がんを免れて、現在生きている設定でしたが、本ドラマでは、フランクは殉職は逃れたものの、後に交通事故で死亡するため、2016年には存在しません。これもいずれは、変わる可能性があります。
レイミーの父フランクを演じるスミス。「Nashville」では悪役だったので、最初は配役ミス!と思ったが、回を重ねる毎に馴染んできた。ちょっと、若過ぎるのでは?とは思うが... WENN.com
「Frequency」は母親の誘拐殺人を阻止するために、2016年現在生きているレイミーがコンピューターや生き延びた被害者から得た手がかりを、1996年の父フランクに伝え、捜査活動をしてもらいます。但し、20年前にパズルの一片を変えると、即座に現在に影響があります。
ジュリア役に抜擢されたケリーは、『よみがえり 〜レザレクション〜』で日本でもお馴染みの女優。20年の差をメイクやヘアーでカバーしているが、「最初は、老けたり、若返ったりには戸惑いました」と明かした。 WENN.com
10月7日にご紹介した「Timeless」も、同様のタイムトラベルを扱っていますが、クリエイターが指摘した通り、タイムトラベルで過去に遡るのは飽くまでも背景で、ルーシー、ワイアット、ルーファスの異色トリオが描き出す人間模様に焦点が置かれています。ルーシーの家族構成が一変した点が最も顕著なタイムトラベル効果ですが、歴史は変えてはならないと言うルールの下でトリオが行動するので、大筋は変わらないため、安心して観ることができます。一方、流し観していると、訳が分からなくなってしまうのが「Frequency」です。本腰を入れて観ていないと「えー????」と困惑するのが落ちのタイムパラドックスです。
第4話まで観ましたが、殺人鬼の捜査は消去法で、ほとんどの捜査ドラマと同じく、こいつが犯人だ?!と追い詰めては、容疑者のリストから消去し次に進むの繰り返しです。消去法の謎解きは、一話完結型の捜査ドラマでは問題ありませんが、1シーズン(10~13話)を通じて続けるのは考えものです。そこまで、視聴者がのめり込んでくれるでしょうか?複雑な謎解きは大歓迎ですが、ABCの新作「Notorious」のように、殺人事件の解決を1シーズンの最後まで引き延ばすのは、かなりきついものがあります。それが証拠に、つい先日、今シーズンの制作本数を13話から10話に削減されてしまいました。現代人の忍耐力が底をついている事実を考慮に入れなかったのでしょうか?それとも、キャラに魅力があれば、視聴者がついて来ると思った誤算でしょうか?「Frequency」は、母を助けるためという大義名分が立つので、私は謎解きに参加したいと思います。
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「Crazy Ex-Girlfriend」シーズン2進行中。奥の深い名曲をご紹介
今秋もエミー賞授賞式が終了した翌9月19日から新番組/継続番組が開始/再開されましたが、CWは例年の如く、10月1週目まで再放送や夏の番組で繋ぎました。
新番組で言うと、「No Tomorrow」が10月4日、「Frequency」が10月5日に放送開始となりました。今年でシーズン3を迎えた「Jane the Virgin」は10月17日、「Crazy Ex-Girlfriend」シーズン2は10月21日から再開されています。
「Crazy Ex-Girlfriend」については、15年9月7日の「レイチェル・ブルーム、プリヤンカー・チョープラーの魅力でお薦め!」に始まり、16年4月15日「エミー賞根回しイベント」、更に16年9月6日の「今夏のプレスツアーのハイライト」として作品のみならず、鬼才ブルームについてもご報告してきました。
8月6日、第32回TCA賞コメディー部門の個人賞を受賞したブルーム。今後の活躍が大いに期待できる歌って、踊れて、芝居が出来る「トリプル・スレット+α」である。 (c) Getty Images
レベッカ(ブルーム)はマンハッタンの法律事務所で、出世街道まっしぐらのデキる女ですが、母親が敷いたレールに乗っかっていただけで、幸せとは何か?自分は今幸せか?等、自分探しの旅に出ることなど考えたこともありません。そんなある日、街でばったりジョシュ(ヴィンセント・ロドリゲス3世)と再会します。10年前に逃がした魚の大きさに気付いたレベッカは、運命の糸に引かれて、ジョシュの故郷カリフォルニア州ウエスト・コヴィーナに引っ越し、焼け木杭に火をつけるべく、元カレ奪還作戦を開始します。「フェリシティ」と同様、初っ端から頼みもしないのに言い寄って来るのは、ジョシュの親友/しがないバーテンのグレッグ(サンティーノ・フォンタナ)。職場のポーラ(ドナ・リン・チャンプリン)は、公私共に平穏無事な毎日を送っていましたが、ロマンとスリルを求めて、レベッカのジョシュ奪還作戦を煽るのみでなく、嬉々として手を貸します。
レベッカの狂気の沙汰を集めたコラージュがシーズン1のポスターだった。
シーズン1最終回。レベッカの恋い焦がれる気持ちが遂にジョシュに伝わり、ディズニー風のハッピーエンドで一件落着かと思いきや....レベッカは幸せの頂点で「追いかけてきたのよ」と、口が裂けても言ってはならない一言を発してしまいます。ジョシュの驚きと戸惑いの混じった顔で、シーズン1が幕を閉じました。
爆弾宣言がもたらした結果は如何に?待ちに待ったシーズン2が再開され、只今進行中です。10月27日の放送開始前に、英文評を公開しました。
英文評はこちら
本作のクリエイター・チーム(アライン・ブロッシュ・マッケンナとブルーム)は、シーズン毎にテーマを決めて展開しています。シーズン1はNYからジョシュを追いかけてきた事実を、屁理屈をこねて飽くまで’否定’するレベッカの自己防衛手段を、シーズン2は恋に一歩踏み込んだレベッカの’確信’を描くと言います。
シーズン2は、焼け木杭に火がついて、想いが伝わったと勘違いするレベッカの新テーマソングで始まりました。「♩恋は盲目、狂気の沙汰は♬私の所為じゃない、何しろ私は♪恋してるんだもの♩♪」的内容を、可愛く、無邪気に歌います。’夢中’だったら、何をしても良いってもんじゃないんだけどな~と思いつつも、余りにも愛くるしいレベッカがファンタジー(非現実)を歌うので、う~ん、ま、良いか?許しちゃう!と思わせるところが、味噌です。
Crazy Ex-girlfriend Season 2 Theme Song
更に、シーズン2プレミア回から、「スッゴイ!鋭い!!天才!」と唸ってしまったのが「Love Kernels」と題する曲です。彼氏の言葉の端々に思いを読み取ろうとする、何気ない無意味な’約束’から二人の将来を読み取ろうとする、片想いの女性の健気な努力(=実は、自尊心の不在)、蹴られてもすがりつく哀しさや浅ましさを、トウモロコシの粒やしずくに例えています。若い頃の自分の姿を見るようで、思わず目を背けたくなりますが、女の悲しいサガを直視しなければ自分探しの第一歩を踏み出すことはできません。片想いを両想いにすることは、不可能。愛情は買うことも、強いることもできません。
Crazy Ex-Girlfriend | Love Kernels | The CW
本作はロマコメ・ミュージカルではありますが、自らうつ病を患ったこともあるブルーム曰く、「恋愛って何なのか?自分を100%受け入れる前に、人を愛せるのか?がテーマよ」と奥深い発言をしたことが思い出されます。自分を100%受け入れずして、片想いに悩んでいる方、彼氏に心を満たしてもらおうとすがりついている女性必見の名曲です。詩は意味深でありながら、さらっと聞いていると現実的で笑えてしまうのが、本作の作詞/作曲家チーム(アダム・スラセンジャー、ジャック・ドルゲン、ブルーム)の偉大さです。恋愛真っ只中の若者には、不可解?かもしれませんが、いずれ解る時が来ますよ!恋愛入門講座のオープニングに使いたい名曲です。
11月4日に放送された第三話では、ブルームの歌唱力以上に演技力が光る「The Math of Love Triangles」が披露されました。三角関係をどのように解消するか、ジョシュ/グレッグのいずれを選ぶべきかをマリリン・モンロー風に、甘ったるく、幼児っぽく歌います。一方、インテリを象徴する数学者がバックシンガーを務め、三角形を数学的に説明しようと試みますが....明らかに「ダイアモンドは女の親友」をもじったものですが、そこはブルームのこと。元の楽曲を知らなくても、十分に楽しむことができます。
Crazy Ex-Girlfriend | The Math of Love Triangles | The CW
一見軽いノリながら、底深いロマコメ・ミュージカル「Crazy Ex-Girlfriend」です。今シーズンも、異ジャンルから数々の名曲が登場しそうです。レベッカが100%自分を受け入れるのは、もう先送りにして、それまでの目を覆いたくなる数々の失敗を満喫したいと思います。いずれ、レベッカに見合う、素敵な王子様が現れることを祈って....現実に、王子様は現れませんが、これは飽くまでロマコメですから、夢物語で終わっても良い筈です。
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「アフェア~情事の行方~」シーズン3開始 [ネタバレ]
※「アフェア 〜情事の行方〜」シーズン1~3についてのネタバレがあります。
私の人間ドラマへの固執は今に始まったことではありません。幼い頃から、好奇心が強く、同年代の子供と遊ぶより、大人の会話を黙って観察するのが大好きな子でした。情報を収集して心理分析するのが好きだから、モノ書きになったのか、モノ書きの素質があった故、観察分析力が養われたのかは、卵が先がニワトリが先か問答になってしまいますが、結果的には観察分析力を十二分に活かして、私好みのドラマを観て頂く説得力のある番組評を書けるようになり、仕事が楽しくて楽しくて仕方がない幸せな「第二の人生」を満喫しています。
文句を言うとしたら、最近何度観ても飽きない、唸るほどの人間ドラマが影を潜めてしまったことです。「グッドワイフ」が完となり、今年のエミー賞関連の報道でも、授賞式でも、ほとんど言及されず、あれ程の秀作に何と冷たい仕打ち!と悲しい思いをしました。最終話を書き下ろしたキング夫妻が、最優秀脚本賞候補に挙がっていたので、これだけでも受賞して欲しい!と思う私の悲願も達成できず、何とも後味の悪いエミー賞でした。唯一の救いは、9月20日にご紹介した新番組「This is Us」が期待を裏切らない、新鮮なドラマとして君臨していることです。何がどう影響してキャラが今に至ったのか、私がいつも欲している’何故?’が巧みに描かれていて、どのキャラにも親近感を感じる故、痛みを我が事のように感じます。視聴率を維持していることは、更に嬉しい事実です。
左からコール役のジョシュア・ジャクソン、アリソン役ルース・ウィルソン、ヘレン役モーラ・ティアニー、長女ウィットニー役のジュリア・ゴルダーニ・テレス。シーズン2のエミー賞根回しイベントは、NYで開催された。 Courtesy of Showtime
そして、待ちわびていた「アフェア~情事の行方~」シーズン3が始まったことも、吉報です。昨年11月23日の「『アフェア』シーズン2進行中。益々、面白くて目が離せない!」と同じく、日本での放送が予定されていると思うので、今回もネタバレは極力避け、新シーズンの方向を大雑把にお知らせします。これまで番宣用の小冊子とDVDが送られてきて、クリエイター自身の新シーズンの方向説明がありましたが、最近継続番組の評論を書きたくても、資料どころか、数話を視聴することもままならぬお粗末な現況です。何度も懇願して、やっと3話を観ることができたので、英文評を書くことができた次第です。
英文評
シーズン1は、不倫の当事者ノア(ドミニク・ウェスト)とアリソン(ルース・ウィルソン)の視点から描かれ、男と女では物の見方、感じ方がこれ程違うのか!と仰天する巧妙な描き方でした。現実逃避だったシーズン1とは打って変わり、シーズン2は不倫の犠牲者ヘレン(モーラ・ティアニー)とコール(ジョシュア・ジャクソン)の視点が加わり、ノアとアリソンが築こうとする新たな世界が遭遇する数々の障壁を、シーズン1よりは遥かに早いペースで描きました。置き去りにした家族や日々の生活に追われ、波打ち際に築いたノアとアリソンの砂の城は音を立てて崩れました。不倫から出発すると、お互いへの信頼は脆いもので、些細なことから疑心暗鬼を生ずることが実証されました。更に、「アフェア」は二組の夫婦を切っても切れない腐れ縁にするために、モントークで発生した刑事事件を織り込んでいます。
エミー賞の根回しイベントの招待状として送られてきたシーズン2の番宣ポスター。 Courtesy of Showtime
シーズン2は、衝撃的なノアの告白で最終回を迎えました。そして、シーズン3は、ノアが拘禁されてから3年が経過し、不倫の波紋は表面的には収まったかのように見えますが、未だ未だ深く潜行して行きます。作家志望の大学生相手に教鞭を執るノアは、キャンパスで巡り合ったフランス人客員教授ジュリエット(イレーヌ・ジャコブ)に誘惑されます。今シーズンは、厳しい現実に耐え切れず逃避留学中のジュリエットが新たに加わって、5人の視点から描かれ、サスペンススリラー要素は、ノアを苛む謎のストーカーに替わります。
「シーズン3は、各キャラの翳りの部分を更に掘り下げる」とトリームが発表。クリエイターの意図を映像化した番宣ポスターだが、5人目ジュリエットの視点が入っていないのが残念。 Courtesy of Showtime
クリエイターのサラ・トリームの意図は、シーズン1では男女の視点に加えて、生い立ち、階級、教養などのフィルターを通して不倫を描くことでした。「不倫の常習犯ではなく、善人が二人、落ち込んでいる時に巡り会い、赤い糸で結ばれているかのような錯覚に陥った。偶然が偶然を呼ぶ成り行き」と、ノアとアリソンを責め咎めることなく描写しました。
シーズン2は、置き去りにされたヘレンとコールの視点が加えられ、ファンタジーの世界が現実に豹変しました。’去られた’側の私的体験があるだけに、ヘレンとコールに感情移入するのはいとも簡単、心痛をじんじんと感じました。アリソンをミューズに祭たてていたノアは、暗い過去を引きずっている生身の人間である事実には目を背け、自作「Descent」に登場する魅惑的なキャラから少しでもズレようものなら、修正を加えようと試みます。アリソンの自己主張は、ノアにとっては大いに興醒めなのです。生身の女を自分なりの理想像に押し込めようとするのは、男の常套手段。不倫など考えたことのない私でさえ、ノアの勝手さに腹が立ち、アリソンを応援してしまいました。よくよく考えてみると、この秀作で同情や感情移入できないのは、ノア独りなのです。
しかし、ノアの正体見たり!のシーズン2第10話で、謎が解けました。セラピストに「浮気男は偉大な男であり得るか?のジレンマに陥っている」と、自ら告白しています。はー、マジですか?ジレンマというより、自惚れ屋の宣言に聞こえるのですが....不倫は一度で済む筈がありません。
ノアがアリソン(新妻)とヘレン(4人の子供の母親で元妻)を法から守るために、犯してもいない罪を認めてムショ入りしましたが、ジレンマ告白シーンでノアの心中が明らかになると、この奇特な行動を怪しむようになりました。どちらを突き出しても、娑婆で苦しむのは自分。村八分になって生きて行くより、いっそ全ての責任を逃れて離れ小島に隔離されている方がどんなに楽か....無意識かもしれませんが、現実逃避の手段だったのでは?と疑ってしまいます。それが証拠に、ノアは再出発に手を貸そうとする妹、よりを戻そうと必死になるヘレンを冷たく突き放します。
トリームは、「夫婦間の信頼は雲をつかむようなもの」と言います。お互いを信用していると夫婦が確信している時には存在しますが、いずれかが疑い始めた時点で、消え失せてしまうからです。信用できない人と、人生を一緒に歩いて行くことはできません。米国では、「男は恋人に変わらないで欲しいと願い、女は恋人に変わって欲しいと願って結婚する」と言われています。男は現実と結婚し、女は将来と結婚するという、男女の結婚観の違いでしょうか?言い得て妙です。観れば観るほど、心理分析したくなる「アフェア」は、今一番面白いドラマです。
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サラ・ジェシカ・パーカーのテレビ復帰作「Divorce」は離婚の機微をリアルに描くコメディー
「セックス・アンド・ザ・シティー」(「SATC」)の放送が終了して12年。映画「SATC」では、サラ・ジェシカ・パーカーがオリジナル・キャストと集合することは何度かありましたが、パーカーが古巣HBO及びシリーズへ復帰したのが、10月9日から放送されている「Divorce/ディボース」です。HBOはプレミアチャンネルのため、我が家では視聴できませんが、例年の如く感謝祭の週末(11月24日~27日までの4連休)はプレミアチャンネルも無料視聴できたので、早速本作をチェックしました。
Showtime局の「アフェア~情事の行方」に対抗するようなタイトルでHBOが制作した「Divorce/ディボース」は、離婚の機微をリアルに描く30分のコメディーです。とは言え、離婚と言う名の人生最大の危機を描く訳ですから、どんより曇った冬空のように、重~くのしかかって来ることは否めませんが、それなりに笑えるシーンも其処此処に盛り込まれています。もっとも、離婚過程真っ最中では、泣き笑いになること間違いなしです。
現在、米国での離婚率は49%と言われているので、視聴者の半分は私的体験のレンズを通して本作を観ているものと思われます。私も離婚と言う岐路に立たされ、第二の人生を切り開きましたが、長年かけて築き上げた結婚を破壊することが、如何に狂気の沙汰で、どれほどの労力を要するかを身を以て体験しました。本作が、哀しくも可笑しくもある狂気の沙汰を余りにも巧みに描いているので、クリエイターのシャロン・ホーガンは離婚体験者に違いない!と思ったのですが....
今夏開催された制作発表のパネルインタビュー記録を読み返してみた所、ホーガンは「他の作品では、自分の体験を基に書いていますが、残念ながら(?)離婚体験はありません。友達に離婚の現実を事細かに聞いて、心の痛みがどのような形で姿を現わすかを描写するよう心掛けました。」と告白しています。確かに、ホーガンの「Catastrophe」(Amazon)も、現実を直視する正直な作品ですし、離婚体験者からネタを引き出すのはいとも簡単なことです。故に、「そう、そう、そうなのよ!」「あー、そんな事があったな~」と共感できる場面が満載です。一旦、離婚列車のレールに乗ってしまうと、誰もが同じような体験をするものなんだ!と過去のお浚いをするような気持ちで私は十分に堪能しました。一方、上級プロデューサー/主演を務めるパーカーは「結婚とはそもそも何なのか?を描きたくて、結婚の終止符である離婚を選んだ」と説明しました。
夫ロバート(トーマス・ヘイデン・チャーチ)のする事なす事に苛立つ妻フランシス(サラ・ジェシカ・パーカー)だが、フランシスとて決して良妻賢母ではない。「Divorce/ディボース」は、男と女の立場が逆転した21世紀米国の離婚を描く故、フランシスに’鼻持ちならぬ女’のレベルを貼る女性視聴者が多い。 Craig Blankenhorn/Courtesy of HBO
結婚して15年余り、一男一女を育てる中年夫婦が倦怠期を迎え、ある出来事をきっかけに、離婚の道を歩み始めます。夫の浮気で結婚が破綻し離婚に至る従来の筋書きではなく、一家の大黒柱も、不倫に走るのも妻フランシス(パーカー)で、夫ロバート(トーマス・ヘイデン・チャーチ)は、自由業の育メンと言う21世紀の設定になっています。所謂「慰謝料」や生活基準維持は稼ぎ手の妻に課せられるのが女性上位の離婚は、シーズン1後半で、喉から手が出るほどの仕事を諦めざるを得なかったフランシスで具現されます。ロバートに給料の半分を持っていかれることは阻止したものの、夢の仕事を諦めたフランシスの喪失は、夫を失う以上に大きいと私は思います。夢の仕事なんて、そこいらに転がっていませんよ。
左から長女ライラ(スターリング・ジェリンズ)、フランシス(パーカー)、長男トム(チャーリー・キルゴア)は通学バスの停留所に向かう。二人とも親離れが始まっており、両親の不穏な空気は見て見ぬ振りをしているが、一旦離婚を知らされるとさらりと流す冷めた現代っ子だ。 Macall B. Polay/Courtesy of HBO
米国では、親の死以上に、離婚が人生最大級の喪失だと言います。長年連れ添っていると、いつどこで亀裂が生じたかを紐解くことは至難の技で、日々の生活に追われて、夫婦間の会話が途絶えたまま時間だけが過ぎて行きます。世間体や子供の手前、同居人として現状維持を続けるか?夢よもう一度!と離婚に踏み切るべきか?など、決定事項が山積みです。ご多分に漏れず、フランシスとロバートは結婚カウセリングに飛び込み、調停で離婚の泥沼を避けようと試みますが....
離婚は心のすれ違いを解消する手立てではなく、資産と親権の分割と言う法的処理でしかありません。心痛とは無縁の何とも興醒めな離婚訴訟にどっぷり浸かり、冷静な判断ができない混乱状態の真っ只中で、今後の人生を大きく左右する重大な決断を強いられます。「先ず、心を癒して頭がスッキリするまで待ってもらえませんか?」と思った人は多い筈ですが、一旦レールに乗っかってしまった離婚列車は誰にも止められません。
弁護士は友達でも話し相手でもなく、高時給で雇った法的アドバイスをしてくれるプロでしかありません。本作では、フランシスが雇った離婚弁護士マックス(ジェフリー・デマン)をはじめとする個性的な弁護士が笑いをとりますが、現実は常軌を逸した弁護士は使い物になりません。話し相手も慰めてくれる人もおらず、真の孤独を味わいます。ロバートのように、親友と結婚するのは、得作ではなかった!と気付いても、後の祭です。伴侶と親友の両方を失ってしまうのが離婚なのです。
幸い、女は結婚しても友達は維持しているものです。フランシスにも、頼りになるかならないかは別として、何らかの支えにはなるダイアン(モリー・シャノン)とダラス(タリア・バルサム)がいます。離婚を口にした瞬間、周囲の人が散り散りばらばらになってしまう体験をしました。伝染病ではないのに....結果的には、まるで篩にかけたように、真の友達だけが残りました。面白いものです。
時間が経ったからこそ、面白いなどと言えるのでしょうが、離婚は終止符と呼ぶには余りにも長く険しいイバラの道です。人生最大級の喪失に直面できず、即再婚に走る人あり、喪失に浸かったまま恨み辛みで残りの人生を無駄にする人もあります。火の海の苦しい体験から学べば、不死鳥になって飛び立つこともできます。既に制作が確約されたシーズン2では、フランシスとロバートは縒りを戻すのではないかと噂されていますが、「Divorce/ディボース」は「アフェア」と同じく、男女関係を客観的に深く考えさせ、主観的に離婚のお浚いができる私好みの作品です。
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ペテン師と殺し屋の丁々発止のやり取りが面白い「Good Behavior」
去る2月1日「16年冬のプレスツアーで読み取った今春の傾向」で分析しましたが、テレビ業界は今正にアンチヒロインの時代と言えます。今回ご紹介するミシェル・ドッカリーの「Good Behavior」は、今春の傾向の5)暗~~いドラマで触れたTNT局のカラー激変!と、6)アンチヒロインの続出を実証する作品だと思っていたのですが、意外にも....
今年6~8月に放送されたTNTが局のカラーを変えようと持ち出した「Animal Kingdom」の極悪非道のアンチヒロイン、スマーフ(エレン・バーキン)とは月とスッポンです。パイロットからレティ(ドッカリー)の心痛と原因は明らかで、どん底から這い上がろうと必死に努力するにも関わらず、もうちょっと!と言う所で元の木阿弥になる、大いに共感できるキャラです。因みに、2016年現在、同情の余地ゼロ、最悪のアンチヒロインは、息子達を凶悪犯罪者に育てあげるスマーフと、法学部の生徒達を手下に悪事を働く「殺人を無罪にする方法」のアナリース(ヴィオラ・デイビス)です。何もかも曝け出せば良いと言うものではなく、ここまでワルだと観る気もしません。
「Good Behavior」は、ブレーク・クラウチの同名のテレノベラの主人公レティ・ドベッシュの危なっかしい生き様をテレビシリーズ化したものです。「シーズン1は、レティと殺し屋の複雑怪奇なラブストーリーを10話で描く」と、本作クリエイターのチャッド・ホッジが7月31日の制作発表の席で述べました。
出所したばかりのペテン師レティ・レインズ(ドッカリー)は就職して居を構え、10歳の息子ジェイコブ(ナイルス・ジュリアン・スティール)と生きていけば、心にポッカリ空いた穴を埋められると確信しています。しかし、母エステル(ルシア・ストラス)に親権を奪われ、実家に近づくこともできません。ジェイコブを引き取る為、マトモな人間になろうと努力はしますが、どうも辛抱が足りません。退屈極まりない普通の生活は性に合わず、スリルを求めてアルコールや薬物に走ります。更生を指導する保護司クリスチャン(テリー・キニー)もアルコール依存で教授職を失っただけに、同情の余り、レティの度重なる違反を見逃しては、上司に目を付けられ、針の筵に座る思いを味わいます。
エステル(ルシア・ストラス)は、15歳でレティを生んだため、青春を謳歌できずに中年になった。結婚依存症(?)で、7回離婚したタフな女だが、好き勝手して生きているレティに嫉妬。歳が近いこともあって、エステルは娘を競争相手と見なしており、ジェイコブの親権を剥奪して優越感を満喫する。WENN.com
アルコールや薬物を避けようと、レティはカツラやブランド品で変装し、持ち前の美貌と色香で、高級ホテルの客室に忍び込み空き巣を働いたり、宝飾店で万引きしてスリルを味わいます。ホテルの一室で耳にした殺し屋と依頼者との会話から、身の程知らずの人命救助に乗り出したレティは、更生の道を踏み外すどころか、とんでもない方向に脱線していきます。
タカビーのメアリーから180度転換、お先真っ暗レティを好演するドッカリー。「アメリカ人の役なので、故郷の人との会話を避けて、米語にどっぷり。演技中は、発音にまで気を使う余裕がないから」と告白。WENN.com
12月13日までに6話観ましたが、早く続きが観たい!と思わせる楽しいドラマです。TNT局の発表とは裏腹に、主人公レティは暗~~いキャラではなく、強がりかも知れませんが、思った事をそのまま口に出す、あっけらかんとした性格です。高飛車メアリーとは雲泥の差ですが、メアリーは貴族の後ろ盾があるので、強がる必要はないのでしょう。ハヴィエル(フアン・ディエゴ・ボット)の存在や殺し屋と言う職業柄、当然暗い場面もありますが、クリエイター(ホッジ)が意とするのは、「レティが何をどう感じているかを視聴者に見せること」です。お先真っ暗レティの目に写るのは、心中とは裏腹なキラキラ輝く極彩色の美しい世界なのです。
善人を自負する(?)殺し屋ハヴィエル役のボット。自尊心が低いため、レティを救うことで、自己有用感を高めるメサイアコンプレックスがある。レティ自身が更生しようと一大決心しない限り、ハヴィエルのコンプレックスは、悪事や悪癖を助長するのみに終わるのでは?WENN.com
ハヴィエルもレティも一匹狼で、ジプシーのような流浪の民、世間の爪弾きであることが共通項です。回転の速さと機知で窮地を逸してきただけに、悪知恵と切返しの女王のタイトルがふさわしいレティ。一方、’善人’だと主張するハヴィエルは無口で四角四面。ホッジはそんな二人のラブストーリーだと言いますが、同じ穴の狢はお互いの悪癖や悪事を可能にしているだけで、二人で助け合ってマトモな人間になるなど、不可能ではないでしょうか?今後どのような展開を遂げるかは不明なので、今シーズンは、マトモな人間になるとは、具体的にどういう意味かを探る旅に出たレティとハヴィエルの丁々発止の渡り合いを楽しむことにします。
保護司クリスチャン以下、レティを捻じ伏せようとする人間を、煙に巻くのも特技です。しかし、煙に巻くのは、当座の逃避手段で、問題の解決にはなりません。もっとも本人は、自尊心の欠如から、「ふりをする」のが大好きで、アルコールも薬物も取り上げられた今、現実逃避の手段として「誰かに成り済まして、口八丁手八丁で盗みを働く瞬間がハイ!」とクリスチャンに告白しています。レティがクリスチャンに破天荒な現実逃避を伝授する第5話、「Beautiful Things Deserve Beautiful Things」は見応えがあります。
クリスチャン(キニー)は、レティの保護司。依存症を断ち切るのが如何に困難かを知っているだけに、レティだけでも夢を叶えて欲しいと応援する。知的な会話ができる上、クリスチャンを遣り込める回転の速さと自由気ままな生き方に一目置いているからだ。WENN.com
「ふりをする」「誰かに成り済ます」のがハイなら、美貌も頭脳も揃っているレティですから、女優を目指すべきだと思うのは私だけでしょうか?
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